弐拾陸


救護班に連れて行かれる幸村を見送り、再び家康に会いに行くことに。
生まれて初めての馬かとワクワクしていたが、何故か私が近づくと興奮し、とても乗れるような状態ではなくなってしまった。
お館様のように二匹の馬の背を立つのが夢だったのに、早くも打ち砕かれた。


動物ってのは私らが思っているより敏感だ。
死臭漂う体、妙なモノを感じたのだろう。
背負うどころか近づくことさえ拒まれてしまった。


……馬刺にしたろうか。


恨みがましく馬を睨むと、ポンと大きな手が頭に乗せられた。
顔を上げると、温かい笑顔。



「偶には歩いていくのも良いじゃろうて」

「よ、嫁ぇええ!」



勢いよく飛びつくと、お館様はよろけることなく受け止めてくれた。
嫁の気遣いに心打たれたね! 流石嫁!
嫌な顔一つせず旦那についてきてくれる心意気に乾杯。





「到着!」

「はやっ!」

「嫁の為頑張ったよ」

「疲れた……」

「才蔵、歩いてないのに疲れたっておかしくね?」

「精神的に疲れたんだ、馬鹿!」



よく見ると才蔵と佐助はげんなりし、お館様も少し疲れてるようだった。
速く走りすぎたかなぁ。いや、馬と対して変わりはないはず。
何に疲れたんだろ。


私、ちゃんとみんなを抱えて頑張ったのになぁ。



「まさかこの年で、このワシが抱きかかえられるとは思いもせんかった……」

「良い経験したね!」

「褒めてないって」

「姫様抱っこはロマンだろ!」

「なんのだよ! つか黒兎の手、際どいとこ触りすぎだったんだけど!」

「男が腰触られたぐらいで喚くな。ったくさっきまで可愛く私に泣きついていたのはどこの猿飛さんだよ」

「誰がいつ泣きついたって!?」


あからさまに動揺する佐助に気づいてないのか、才蔵はデタラメ抜かすなと頭を殴ってきた。
泣いてはなかったけど、かわいかったのは事実だよ。抱きついてたし。
と心の中で付け加え、才蔵もいつでも泣きついておいでと笑った。

今度は手裏剣の刃を横にして殴られたが。


「さっさと徳川家康に謁見するぞ」

「りょーかい!」


さってと、同盟大作戦始動!


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