弐拾参

誰にも見つからないように(特に女中さん)部屋に戻り、着替えを探す。
無地の白い着物でもあればと考えていたが、流石武田というべきか。
何故か部屋には赤い着物しか見当たらない。

あれか。私も武田カラーに染まれと?
身も心も熱く燃え滾れと遠まわしに言われているのか。

巫女服でかなりの羞恥プレイだというのに、普段着まで制限されたくない。
赤が嫌いなわけではないが、たまには反抗したくなるというのが子供心。
この着物はまた別の機会に着よう。


とりあえず今は裸ぐらい平気ってことを主張してみようと思う。


「というわけで才蔵、服貸さないと全部脱ぐ」

「なにがというわけだ」

「いちまーい」

「一枚って殆ど全部だろっ」

「下穿いてないから、全部だよ」

「貸すから脱ぐな」


才蔵、必死だな。
間を許さず即答する才蔵に、他人事のように考える。


手を引かれるままについていくと(多分)才蔵の部屋に招き入れられた。
各地の土産が隅に並ぶ部屋の押し入れから、才蔵は着物をひとつ引きずり出した。
それから顔面に投げつけ、ぶっきらぼうな声を投げかけてきた。


「これでいいだろ」

「ありがとー」


いやぁ、才蔵は優しいなぁ。
淡い鶯色の服に袖を通しつつも、頬は緩みっぱなし。
脱ぐと言った私に対してしどろもどろしてた才蔵可愛かったなぁ。

最後に帯を強く結び、廊下で待っていた才蔵に御披露目した。


「才蔵! 似合う!?」

「普通」

「一番反応に困る答え!」


似合わないより嫌な答えだ!
可もなく不可もなく。よ、喜ぶべきなのか?
才蔵なりの誉め言葉と考えていいのか?


「よーし、じゃあ二日酔いをしたひ弱な才蔵の為に私が腕を奮ってやろう!」

「ひ弱は余計だ」

「厨房にれっつらごー」

「れっ……?」


聞き慣れない言葉に首を傾げてるが、気にしなーい。
遅れて後ろを歩くのを確認して、厨房へと足を進めた。


「到着!」

「早いな」

「アンコ無いかなぁ」

「ぜんざいでも作るのか?」

「才蔵凄い! なに、テレパシー!?」


二日酔いには塩分と糖分が同時にとれて、かつ液体状のぜんざいが一番って思ったんだけど、バレてるとは思わなかった。
恥ずかしいじゃないかっ!


「やる気失せた。才蔵なんかウコンで十分じゃい」

「塊のまま食べさせようとするな」

「搾ればいいのか」

「素手で搾るな」

「あ、粉になった」

「この馬鹿力、がぁっ!?」


え、何をしたかって?

粉になったウコンを口に放り込んだ。

かなり苦かったらしく噎せている。それとも粉が気管に入ったのかな。
どちらにしても苦しそうだ。

水あげた方がいいかな。
汲み水を湯呑みに移し替え、渡そうとした瞬間才蔵が顔を上げた。

せき込んだせいか顔は赤に染まり、目を涙で潤ませこちらを見つめた。


えーっと、理性ってなんだっけ。

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