拾玖
家康に慰められ、佐助を追うが遅かったらしい。
走れど走れど姿は見えず。
森に入ってしまえば、空すら狭くなった。
光が僅かに差し込む森の中。
ここから佐助を探すのは困難だ。
しかも方向感覚が狂いそうなほど、同じような景色が続く。
鳥の囀りすら今の私には煩わしかった。
「佐助ー」
名前を呼ぶが当然返っては来ない。
代わりに囀っていた鳥がどこかへ羽ばたいていった。
あの鳥達に紐つけて飛ぶとかできないかな。
メルヘンの世界もBASARAの世界も大差なさそうだし、佐助とかすが見てると普通に出来る気がする。
意識までトリップしてきたな。
あ、水の流れる音。
無駄にいい聴覚でもギリギリ拾える程度の音。
距離はありそうだがここで立ち往生してても仕方がない。
もしかしたら人がいるかもしれないし。
暫く歩くとやはり川があった。近くに人は、いない。
どうせそうだろうと思ってたさ。
私もそんな期待してなかったし。
ショックなんか受けてないよ、馬鹿!!
まぁ、それはそれで都合がいい。
服を脱ぎ捨てると、私は川に飛び込んだ。
雨や泥や血で汚れた身体。流石に気持ち悪かった。
思ったより澄んだ水で身体を清め、血も綺麗に流した。
ついでに雨で濡れた服も洗ってやろうと思い、服に手を伸ばす。
べちゃりと雨水を吸い込んだ着物は、泥と血のせいで元の色を忘れてしまいそうだ。
さっきの戦いのことを思い出す。人の命も身体もなんとも思っていない悪魔のような所業。
おそらく、私の中にいる私を完全に制御できていない。
鎌を取り出し、化物の力を完全に引き出すと、罪悪感や理性が半分飛んでいる。
人を切りつけた感触を覚えていない。
人を切りつけた感情を覚えていない。
人を切りつけた恐怖を覚えていない。
まるで別の誰かに成り代わっていたかのような、私がやっているのを外で見ていたような感覚。
いくらもうひとりの私とはいえ、アレは私自身ではない。
例えようのない気持ち悪さから逃れたい一心で、服を乱暴に川水で濯いでから力いっぱい絞った。
水が大量に滴り落ちる音と共に布が裂けるような嫌な音が。
思わず手を止める私とは相反して水は未だ滴り落ちて、服は見事に裂けていた。
「嘘……」