拾捌

「なんでそこで携帯が出てくるわけ!?」

「だって携帯が本命だし」

「だからって今頼むことじゃないでしょ!」

「じゃあいつ頼むんだよ!」

「今以外のときだよ!」

「じゃあ“さっき”でもいいじゃん!」

「屁理屈言うな!」


佐助のおかんレベルが着実にアップしていくのを感じながら、これ以上の問答は不要と判断し、改めて家康と向き合う。
携帯という聞きなれない言語と、私たちの会話に戸惑う家康がびくりとこちらを見た。


「カラクリには自信あるだろ?
私の持ってるカラクリに家康じゃないと直せないほど高度なものがあるんだ」

「ワシじゃないと?」

「何かあったらいけないから今は持ってないんだけど、是非とも家康に直して欲しくて。
なぁ、家康だけが頼りなんだ」


昔父親が言っていた。
男っていうのは自分しか出来ないことだと言われるとその気になるもんだと。
頼られると弱いなんだよ、男は。と笑う父親の顔が浮かぶ。

それが本当かどうか確かめるときがようやく来たらしい。
家康を見ると、まんざらでもない様子。
よし、これは手ごたえあり。


「後日徳川を訪れるからさ、その時返事聞かせてくれよ。
駄目だったら大人しく三河を満喫して帰るし」

「分かった」


猶予を与えてやると、すぐに返事が返ってきた。
といっても断らせるつもりはない。
いざとなったら力づくでも直させよう。

携帯を直すためなら私は如何なる努力も惜しまないよ。


心の中で拳を握りしめ、決意表明をすると家康が後ろを指差した。


「おい、忍がどっか行ったけどいいのか?」

「へ?」


振り向くと烏が遥か遠くを飛んでいた。
近くに佐助のらしき凧が滑空している。
……私、置いてかれた!?

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