拾漆
「てめぇは武田の忍っ! ワシを攫うつもりか?!」
安全なとこ、武田と徳川の領地の境に連れて行ってもらったのは良いが喚く喚く。
キャンキャンと子犬のように吠えまくる家康に、佐助の頬肉が痙攣しかけてる。
雨は未だ降り続き、服がじとりと肌にまとわりついてるのも関係してるのだろう。
濡れた佐助も前髪が下りてて、すっごい色気あるなぁ。
こんな時じゃなかったら襲う。
つか今襲いたい。
でもそんなことしたら作戦が……っ!
気を取り直し説得。
肩を掴むと、体を硬直させた。
程よく怯えられてるな。右手にべっとりとついた血糊に苦笑し、名前を呼ぶ。
「家康」
「な、なんだ!?」
「弱い犬ほどよく吠えるんだよ」
「ワシが弱いと言うのか!?」
「弱くないというなら黙って聞け」
少し落ち着いた家康から離れると硬直をとく。
大事なことだ。
念を押すと真剣みを帯びた顔つきになった。
「携帯直して」
は? と家康が口を開ける。
一瞬間を置き、佐助に頭を殴られた。
しかもグーで。