城に戻ると、りんちゃん(女中さん)が悲鳴を上げた。
そりゃそうだ。
高そうな着物を汚してしまったのだから。

思いっきり服をひっぺがされ、さらしとスパッツ姿に。
どたどたと着物を持って走るりんちゃんに、ごめーんと大きな声で謝ると、謝るぐらいなら汚すなと叱られた。ご尤も。
初めは客人扱いだったが、今は武田軍の仲間として扱ってくれている。
同じ女ということで、仲良くしてくれてるし、私としては助かっていたり。

ただ、身長が高いせいか周りの女中さんの頭一つ飛びぬけてしまう。
下手すると他の兵卒より少し高いときだってある。
幸村や佐助、お館様と並ぶと低いのに、なんだろうこの差は。中途半端な自分のサイズに不満を抱いてしまう。

廊下で武士のおっさんに挨拶をし(私の格好に一瞬ぎょっとしていた)、お館様の部屋に向かう。
徳川に行く許可貰わないとな。


「お館様ぁあああああ!!」

「黒兎、旦那の真似して叫ばなくていいから……ってなんて格好してんの!」

「りんちゃんに脱がされたー」

「りんちゃん? あ、女中のことか」


武田軍の女中さんの名前はほとんど覚えたよ!
どうせ眠れないからと朝早くから女中さんに挨拶して、お手伝いして、おしゃべりして、交流深めてたからな!

佐助に投げ渡された服(多分男物)に袖を通し、紐を固く結ぶと佐助が違う違うと着付けてくれた。
万歳の格好で嫁が甲斐甲斐しく世話してくれるのを見つめる。
良妻に恵まれて私は幸せだよ。
ただ下手するとすぐに嫁じゃなくておかんになるのが問題だな。


「黒兎、ワシに何か言うことがあったのではないのか?」

「そうだった! お館様、私徳川軍に行きたい!!」

「む、何故じゃ」

「家康なら私の携帯直せるかなと思って。あと、忠勝と腕試ししたい!」

「携帯ってそのカラクリのこと?」

「おぅともよ。私の時代じゃ三種の神器ともされるKE☆I☆TA☆I!
壊れたのか電池が無くなっただけなのか分かんないけど、やっぱ不安だし」



写メれないって本当に辛い!
幸村の泣き顔とか、小十郎の極殺モードとか、心のフィルムに焼き付けたものの、やっぱり残しておきたかった!!


「ふぅむ、佐助。今回はお主に頼んでもよいか?」

「へ、何の話?」

「今回の俺様の任務、徳川家康の誘拐なんだよね」

「誘拐!? ちょ、なんて美味しいげふんげふん。目的は?」


なんとなく予想は出来る。
大体の軍が評価しているのは家康ではない。
十万の兵と、横に立つ強靭な兵。
強さが正義なんて、なんと皮肉なことか。

それを手に入れたとこでどうにもならないときだってあるのだけど。


佐助は私が予想していた言葉を発した。


「そりゃ忠勝の…「やめた方がいいよ」


それは確実に失敗する。
佐助の言葉を遮り、低い声で諭す。

忠実の歴史ではないものの、ゲーム内で失敗した出来事が成功するとは思えない。
正直言うと心惹かれたんだけどね。
すごく惹かれたんだけどね!
一度はやってみたいじゃないか、家康誘拐!


「それが、黒兎の知っている未来か?」

「そんなもんかな。それにさ、忠勝の力は驚異的だけど、私の方が凄いよ?
仲間に出来るもんなら全部引き込んじまえばいい。家康だって話の分からない餓鬼じゃないだろ」


ニヤリと獲物をちらつかせれば、虎は唸るように笑った。

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