気付けばずっと謝罪の言葉。
ごめんなさいごめんなさいと生まれたばかりの赤ん坊のように、一つの言葉を繰り返す。

本当の赤ん坊なら泣いてスッキリするだろうに。
温もりに安心できるだろうに。
腹を満たして満足できるだろうに。


嗚呼、化け物になんて、なりたくなかった
あのまま死んでしまえれば
良かったのに


「黒兎」


突然名前を呼ばれ、肩が震える。
だがその震えを抑えるように、抱きしめられた。

お館様の大きな手で頭を撫でられれば、上手く顔を上げられない。
お館様はどんな顔をしているのだろうか。
後ろの佐助はどんな想いで見ていたのだろうか。

分からない。分からない。分からない。
私の口からは、また謝罪。そして拒絶。


「私、お館様が抱きしめてくれても分からない……! 温かいとか分からないんだよ……っ」

「良い。ワシがこうしたいだけじゃ。旦那が辛い時に嫁が寄り添うのもなかなかじゃろ」

「……」


お館様の言葉に言い返す気すら失せ、大人しくお館様の腕の中。
段々落ち着いてきた私はふと思う。

す……っごく恥ずかしい!
な、何やってんの私っ!
嫁にこんな失態晒して、お館様が旦那って呼んでくれたことに萌えないとはなんたるネガティブモード!

あぁっ、恥ずかしい!
良かった、泣けなくて。
もっと恥ずかしいことになってた。
今からポジティブモードに修正!
お館様に抱きしめられたことに喜ぼう! しかも頭撫でられるというオプション付き。

うん、これはお得!

じっくりと堪能した私は引きつる表情筋をフル稼動して笑顔を作った。
少し力を入れ、お館様から離れると笑顔のまま


「ありがとう! 楽になった!」


と大きな声でお礼を言った。
あ、とお館様が呟いたが、逃げるように障子に手をかける。
しかし、障子を開けた瞬間赤いものにぶつかり、足止めされた。


「な、幸村!」

「黒兎殿……」


お前盗み聞きしてたのか!
思わず叫びそうになったが、幸村の悲しそうな顔を直視してしまい、飲み込む。

私のせいだけどこれは、なんというべきか、


「破廉恥でござる!」

「某の台詞!?」


逃げ出したかった。

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