私への嫉妬か、お館様への嫉妬か。ムシャクシャしてやったのか。
ともかく過激なつっこみに避けることもせず、そのままくないを腹で受け止める。
また傷が増えたな。巻いている包帯に血が染み出るのを感じながら、恐怖も苦痛も無い体に慣れてしまったことに落ち込む。

慣れって怖いなぁ。

頭をポリポリと掻き、避けるとか受け止めるとかしようとこっそり決意。
お館様が辛そうな顔するし。
くないを抜き、服で血をふき取ると、佐助に返しておいた。

複雑な表情でくないを受け取る佐助の手。
この手はいくつもの人の命を奪ってきたんだよな。
なんて酷な考えが浮かび、消えた。


「黒兎、確認したいことがあるんだけど」

「……なに」


いつの間にか険しい表情になった佐助に、少し動揺しつつも平静を装った。


「感覚ある?」


乾くはずの無い喉が張り付くような感覚。
バレた、バレタ、知ラレテシマッタ。
流れるはずの無い汗がどっと噴出した気がした。
化け物という自覚ぐらいある。だけど、小十郎に面と向かって言われたとき酷く辛かったのを覚えている。

死んでいる人間なのだ。感覚が死んでいても可笑しくは無い。
そう開き直ってもいいかもしれない。

しかし言葉が出てこなかった。
佐助の貫くような視線が、お館様の見透かすような視線が。
何故か悲しかった。


「才蔵から報告があったんだ。黒兎には感覚が無いんじゃないかって」

「なん、で……?」


頑張って誤魔化そうとしてみるが、いつもの饒舌を演じきれない。
喋れ。なんか喋って誤魔化せ。
いつもみたいに馬鹿やって笑って、笑わせて、それで終わりたい。

そんな淡い希望も、すぐに崩れ去る。
死刑宣告のようだった。


「なんとなく、らしいけど。確かめてみてもいい?」


諦めた。
なにもかも馬鹿馬鹿しくなって、虚しくなった。
乾いた笑いが漏れる。


「……確かめなくてもいいよ。私、本当に感覚ないもん」


なんでだろ、本当、凄く悲しい。
佐助やお館様の目がまともに見られない。
俯いてしまう自分があまりに情けないが、それ以上に悲しかった。
理由なんて分からない。だけど、今の感情に名前をつけるとしたら【悲】そのものなのだろう。


「痛覚がないのは見ての通り気づいてただろうけど、味覚も温感も何も無いんだ。
お館様が抱きしめてくれても温もりを感じられないし、佐助が作ってくれた美味しそうなご飯の匂いも、幸村が一口くれた団子の味だって全然分からなかった。
ごめん。私、その行動一つ一つが嬉しいのに、ちゃんと受け止められない……。ごめん、本当に、ごめんなさい」


今にも涙が溢れてきそうだというのに、そんな私の感情を無視し瞳は乾いていた。

血は嫌というほど流れるのに、心は悲鳴をあげたくなるほど痛くて堪らないのに。

それがあまりに辛くて、泣きそうで、
いっそのこと大声で泣き喚きたかった。

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