弐拾弐

着替え終わると、政宗が木刀を構えていた。
私と勝負をしたいとのことらしい。
丁度小十郎は野菜と酒を包む為に屋敷内に消えている。
咎める者は誰ひとり居ない。
才蔵は成実と手合わせをする事になった。
重長と猫さんは審判だ。


「木刀使用の一本勝負。容赦したらぶっ殺すでいいんだっけ」

「yes.easyだろ?」

「俺とさっちゃんは素手の手合わせ。おーけー?」

「さっちゃん言うな」


冷たく返す才蔵に落ち込む様子もなく成実はにこやかに構える。
やはり右手は見えない。

私も木刀を構えるが、使ったことが無いため見よう見まねだ。
政宗を手本にしようにも六刀流なんて真似できない。つかしたくない。

猫さんの凛とした声が通る。


「用意、はじめ!」


先に動いたのは政宗、そして才蔵だ。
二人とも約束通り容赦するつもりなんて毛頭無いらしく、真っ直ぐに急所を狙ってく。
それを寸での所でかわしたのは成実。私は政宗の腕を掴み自分のところに引き寄せた。
その腕を後ろで固め、木刀を政宗の喉元に押し付ける。
勝負あり、かな。

だが、審判の猫さんは終わりの合図を告げない。
才蔵達を待ってるのか?

意識が逸れたその時、政宗が喉を鳴らした。


「まだまだだな、Baby」

「は?」


ニヤリと政宗が笑ったかと思えば、足を思いっきり踏まれた。
容赦しない。そう決めてたのに、油断していた。

しかし、政宗は知らない。
力を抜いた私から離れ、勝利を確信した政宗は。


「神子はね」

「Ah?」

「負けず嫌いなんだ」


痛みを感じない体は足を踏まれても、支障をきたさない。
踏まれた足を軸に半回転すると脇腹を狙ってきた木刀が背中を掠めた。
そのまま横へ払う木刀を踏み台に。

政宗の頭上まで飛び上がると、足を振り下ろした。


「勝負あり!」


猫さんの声に我に返る。
見ると政宗が伸びていて、重長が手当てをしていた。
うわ、やりすぎた!
焦りが顔に出てたのか猫さんが肩を叩く。


「心配しなくても大丈夫。うちの旦那様は丈夫だから」

「かかと落としだから一本じゃないですし」

「そうだねぇ。でもあっちも凄いよ?」



猫さんが指差した方向、才蔵と成実を見る。
……素手での手合わせって言わなかったっけ?

才蔵は暗器を、成実はそれを腕で弾き返している。
もしかして成実って義手か?
時折混じる金属音に耳を傾けると、やはり金属が擦れる音が聞こえた。
袖で隠れた腕が金属で覆われているのは間違いない。義手じゃなくて篭手かもしれないが。


「お二人さーん、素手って言ったでしょー」


猫さんが呼びかけるが、二人の耳には入っていないらしい。
止まる気配の無い二人に猫さんは溜め息をつき、木刀を手にとった。
へぇ、猫さん二刀流なんだ。
ゆらりと構えたかと思えば、素早い動きで二人の間を通り過ぎる。

いや、ただ通り過ぎたんじゃない。
二人の頭を殴って通り過ぎた。

猫さんは木刀を持ち直すと頭を抱えた二人に突きつける。


「人の話はちゃんと聞く!」

「「はい……」」


あ、初めて成実が可愛く見えた。


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