拾玖
酒を一気に飲み干すと、横から新しい酒がなみなみと注がれる。
味覚は戻ったものの、酒は未だ水としか感じられないのが幸いだな。
伊達軍代表の成実、猫さん、リーゼント数人と武田軍代表私。
酔いつぶれた才蔵を呼ぶわけにもいかず、一人で参戦だ。
しばらくは皆各自のペースで飲んでいたが、二升を過ぎたとこからリーゼントが一人脱落。
残るリーゼントも顔を赤らめ、アルコールがかなりまわっているみたいだ。
三升を過ぎ、赤かった筈なのに青くなっていた。
ちなみに私は当然、成実も猫さんも顔色一つ変わっていない。
「成実と猫は相変わらずだが、黒兎もザルとはな」
「小十郎もだろ?」
「そういや小十郎もか。アイツ酒呑むと少し饒舌になるだろ」
「フレンドリーで驚いたよ。政宗も飲んだら? 酔っても私が優しく介抱してやるからさー」
「だからpath」
げんなりと答える政宗に、残念と笑い、何杯目か分からない酒を飲み干す。
と、最後のリーゼントが倒れた。周りのリーゼントが駆け寄る中、私は成実と猫さんを盗み見る。
……すごいな。
特に成実。さっきもかなり飲んでたよな。どんな肝臓を持ってるんだよ。
ペースを崩すことなく飲み続ける二人に、流石の私もピンチ。
だってずっと水飲んでるようなもんだよ!?
酔うこともなけりゃ、肴もあまり残ってないし、美味しいと感じられない。
しかも水っ腹になりそうだ。
だがしかし。
「黒兎ちゃん、苦しかったらいつでも降参しなよー」
成実には負けられない……っ!
勝った人は負けた人を好きに、負けた人は文句が言えないっつールール。
成実の命令なんて絶対にろくなもんじゃないし、今の体じゃ逃げることすら疎か、抵抗だって出来やしない。
「苦しく、ない」
「黒兎、成実に負けたくねぇのは分かるが、猫がいるんだぞ」
「まーくん……」
「What's!? まーくんってオレか!?」
「ちなみにムネムネでも可」
「普通に呼べよ!」
「奥州筆頭独眼竜伊達籐次郎政宗梵天丸」
「普通じゃねぇよ! つか何で幼名まで…」
何やらブツブツ呟く。
政宗の声が響く。
様々な音が重なり
大きくなって
消えた。
「黒兎っ!?」
上下が入れ替わり
視界には天井――を遮る竜の姿―――が映る。
予想していた衝撃は支えられたおかげで軽い。
あ、久々の人の温もりだ。
そう気付いた途端安心感に包まれ、眠気が襲ってきた。
瞼を閉じれば其処は暗闇。奥に見えた光に手を伸ばした瞬間、意識が途切れた。