拾漆

おわぁ、ヤバいなぁ。
試しに鎌を出そうとしてみたが、やはり出ない。
ただの“人間”になってしまったらしい。

これで元の世界に戻れるなら良いが、ここで人間になっても危険なだけ。
この世界では、いや時代では戦えない奴はお荷物だ。
せっかくお館様に認められたというのに、このままでは棄てられてしまう。
どこにも居場所がない世界に放り出されたくない。

大勢のヤンキーに囲まれ、頬に冷や汗が伝う。
死ぬことは無さそうだし、大人しく痛い目に合っといた方が……は御免だし。
どうしたもんか。


「あんたらが私を気に入らないわけは分かるけどさ、どうしたいわけ?」

「肝の据わった坊ちゃんだ。どうだい、俺らと勝負しないか?」


坊ちゃんじゃないってば。
そんなに男みたいかなぁ。


「勝負方法は?」

「さっきの飲みっぷりからして、かなりの酒豪と見た。飲み比べをしねぇか?」

「飲み比べね。あんたらが勝ったら?」

「筆頭や小十郎様、成実様への謝罪。つか腹切れ」

「断る」

「……土下座して、さっさと忍連れて帰れ」

「私が勝ったら?」

「謝る」

「潔いな! 清々しすぎるわ!」


私には切腹言い渡しておいて、負けたら謝るだけかよ。
どうせなら政宗くれ。
それか小十郎くれ。
成実はいらん。重長はちょっと犯罪の香りがするんだよなぁ。
十年後ぐらいに美味しくなってそうだけど。


「まぁいいや。そっちは自分の手で奪うとして。誰が勝負すんの? まさか全員じゃねぇだろ?」

「何を奪う気だ。何を」


怪訝そうにこちらを睨むリーゼントに対して曖昧に笑うと、


「ま、何人相手だろうと負ける気はしねぇけど」


挑発してみた。
案の定、挑発に乗るチンピラを尻目に私は朱塗りの杯を手に取る。

記念すべき一杯目いきますか。

酒をトクトクと縁まで注ぐと、誰かにコン、と乾杯された。


「あたしもその勝負乗った」


見ると、右目に眼帯。背丈も顔も笑い方も政宗にそっくりな人
え、あ、え?


「黒兎ちゃんだっけ。あたしが勝ったら、うちの子ね」


にこりと微笑む姿は女性独特の柔らかさ、そして有無を言わせない強さがある。
もしかして

もしかしたら
ひょっとして

ひょっとしたら


「猫さん!!?」


驚いた後、うんと笑ったのを見て確信した。
この人は伊達政宗の側室、猫御前さんだ。
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