拾陸
※政宗視点
あいつの目を見た瞬間、無い筈の右目が疼いた。
黒くおぞましいものを潜めた瞳。
へらへらとした軽い笑みの裏には何を隠している?
話だけだが、小十郎に切られてもピンピンしていたらしい。
見たところ傷らしいものは見えなかったが、本当だとしたら化けもんだな。
是非とも一度真剣勝負を願いたい。
……性格が多少ムカつくが。
一人部屋を出ると小十郎達を追った。
小十郎は重長の部屋に、成実は……どこ行ったんだ?
キョロキョロと辺りを見回すが、成実の姿はない。
「何をお探し?」
「あぁ、成実がどこに……なっ!?」
「相変わらず気配読むの苦手だなぁ、梵は」
「お前は相変わらず気配消して背後立つのだけは巧いな」
「へへー、さんきゅう」
ぎこちないが意味合いの正しい南蛮語を使うのは成実らしい。
前に重長にも教えてやろうとしたが、小十郎に止められた。
「そういや黒兎ちゃんは? 一緒じゃないの?」
「置いてきた」
つか野郎にちゃん付けするな。
いくら女みたいにbodyが華奢でも、女みたいなfaceしてても……。
ん? どこで男だと判断してた?
よくよく考えてみれば、女の方が合点が行く。
顔も声も体型も女寄り。
口調と格好で勘違いしてたが、巫女っつーと女だし。
「ってことはさぁ、黒兎ちゃん一人?」
「いや、足軽とかいるだろ」
「それはヤバいね」
あちゃー、と苦笑いを浮かべる成実。
なにがヤバいんだ?
黒兎に足軽がやられるとか?
「みんな黒兎ちゃんの事気に入らないみたいだったからねぇ」
「まぁムカつくっちゃあムカつくが」
「痛い目合わされてたりして」
黒兎が痛い目にあわされてる姿なんて想像出来ないが、危ない目にあっているのだとしたら一人にしたオレの責任だ。
急ぎ足で部屋に戻ろうとすると、部屋から黒兎の叫び声がひとつ。
くそ!