拾伍
感動したのも束の間、頬に痛みが走った。
ちょ、これ痛っ! なんか抉れてないっ!?
焼いて無理矢理止血されてるけど、深いよ?
箸でこの威力って、刀だと顔無くなるレベルじゃね!?
右頬を抑えて蹲る私に、政宗が声をかける。


「おい、大丈夫か?」

「美味しいけど、頬痛い」

「……」

「こ、小十郎、そんな怒るなよ。Sorry.オレが悪かった」


うぅ、マジで痛い……。
消えていた感覚が一気に戻り、味、痛み、匂い、温度などが一斉に情報として入ってくる。
き、気持ち悪い……。感覚が無いことに慣れ始めていた体が拒絶反応を起こした。


「顔色まで悪いぜ?」

「の、飲み過ぎただけさ」


心配かけないよう言ったつもりだったが、今度は小十郎の顔が歪んだ。


「飲ませた俺の責任だ。……すまない」

「いや、拗ねて怪我させたオレが悪かった」


頭を垂らした竜とその右目。
気位の高い二人からは滅多に見られない様子だ。
一瞬だけ優越感に浸るが、殺気を感じ取り身震いする。
殺気の出どころはリーゼント頭の兵卒達。
メンチ切るのは良いが、リーゼントのせいで威力半減だ。

うーむ、かと言って力が出ない私がこいつらによってたかって襲われたらフルボッコどころじゃないよな。

いや、一番の問題は……


「黒兎ちゃん、気分悪いなら俺が部屋まで送ろうか?」


にこやかに好青年を振る舞っている、伊達成実。
あんなに呑んでいた筈なのに、顔色一つ変わっていない。
酒臭くもないし、最強の肝臓の持ち主だな。
分解力ありすぎだろ。


「成実、お前は忍を運べ」


政宗も何か感じ取ったのか、酔いつぶれた才蔵を指差す。
まぁ、さっきからずっと放置だし。


「無理無理。俺、刀より重い物持てねぇもん」


流れる水のようにさらりと吐かれた嘘。
その嘘を叩き落としたのは小十郎だ。
小さな重長を太い腕で抱きかかえ、部屋を出る。
つまらなそうに、だが素直に才蔵の片足を掴み、成実も小十郎の後を追った。

段差と角で才蔵が呻いた気がするが、気のせいだということにしたい。


「ったく、誰が刀よりheavyなもんが持てないんだ」
「片手だったんだけど」

「まぁ、いい。黒兎」

「ん?」


差し伸べられた手の意味が分からず、首を傾げるとため息をつかれた。
もしやその手を取れと? しかも部屋まで送ってくれると言う意味か。
ついでに初夜まで共に……


「しねぇよ」

「あれれー?」

「ワザとか! ワザと声に出してただろ!」

「あれれー?」

「いちいちムカつくな!」


怒りを露わにする政宗は、一人で部屋を出てしまい、ついて行こうとした私の目前で障子を閉めた。
鼻が挟まるとこだったよ。

危ない危ないと、遅れて障子を開けようとするが、開けられない。
見るとリーゼントヤンキー達に押さえられていた。

絶体絶命?
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