拾壱
「才蔵! それ、もう一回!! もう一回言って!!」
「真昼間から事に及ぶなんて……。不健全な上、男色とは」
あ、やっぱりスルーなわけね。
分かってたけど。うん、分かってたけどさ。
それとお前は私の性別知っているよな。男色は可笑しいよ、絶対に可笑しいよ。
「男色なぁ。ま、どっちでもイケるけど」
「まさかの両刀!? 爆弾発言来たよ!?
もしかしなくても重長にいらん知識を植えつけたの成実だよな!」
「いらない知識じゃねぇって。どうせいつか知る大事な知識だよ」
「フライングすんな」
幼子が知るには明らかに刺激的過ぎる知識だから。
当の重長が理解できなかったからいいものの、将来成実を恨むって。人前で思いっきり喋ってるもの。
どんだけ敵を作りたいんだ。
ジッと睨むと、口付けられそうになった。
いくら本気じゃないからって反射神経、素早さは人一倍ある。
寸前のところで手で受け止めた。
おや、と意外そうに目を見開く成実を押しのけ、才蔵の後ろへと回る。
才蔵には危ない場面を見られてしまったが、あのまま才蔵が来なかったらR指定だったよ。
100%私の貞操が奪われるところだった。
才蔵の後ろで着物の帯を締め、結び方が違うと才蔵に直してもらった。
改めて才蔵越しに成実を睨みつける。
私のブラックリスト入り決定。
性格的には好きだけど、今後一切関わりたくない。
「ありゃー、俺嫌われちゃった?」
「あれで好かれると思うほうが凄いわ」
「……黒兎に嫌われるなんてよっぽどだな」
「いやぁ、それほどでも」
「全然褒めてない! つか知っててその反応だろ!!」
このままではキリが無い。
つっこみに疲れた私は、才蔵に話題をふる。
「才蔵、何かあって呼びに来たんじゃないのか?」
「あぁ、宴の準備が整ったとかで」
「早っ! 伊達軍手際良過ぎだろ!」
「梵が治めてるんだもん。当たり前っしょ」
当然だと自慢げに笑う成実を置いて、私は才蔵の手を引く。
さっさと宴に参加して、さっさと萌えて、さっさと帰ろう。
「黒兎、宴の場所分かるのか?」
「耳良いから。たくさん人の声が集まった場所だろ?」
「まるで獣だな」
……なんか私この世界にきて人間扱いすらしてもらえてない気がする。
ちょっと虚しさを覚えつつも、耳を研ぎ澄ます。
どんちゃん騒ぎする音も近づいているからこっちで間違いない。
障子を開けると、案の定宴会の真っ最中。
酒やらご馳走をかっ食らうチンピラ……げふんげふん兵卒達も私らに気づいたらしく視線が集中した。
うわ、マジでリーゼントだよ。初めて見た。
「お前が筆頭の友達の黒兎かぁ?」
「オー、イエス」
「そうか、仲良くしよーぜ」
えーっと、これが伊達軍流の歓迎って奴?
各自の獲物を構えるリーゼントに囲まれ、私はポリポリと頬を掻く。
やるしかないみたいだな。
才蔵と目配せをすると、私らもお互いの武器を現した。
さぁ、宴を始めるとするか。