成実に連れられ三千里。嘘です。

伊達成実(だてしげざね)、伊達政宗の従兄弟。
伊達の三傑の一人で、武の伊達成実と称されている。
決して背を向けないとの意味を込めてムカデの兜を被っているんだったっけ。
だけど上司である伊達政宗は直江兼続に、負けて逃げる後ろ姿しか見たことなかったから顔見ても分からなかった。なんて嫌味言われていたよな。切ない。
ちらりと横目で見ると、火傷の跡が目に入った。
体のところどころに散らばる火傷の跡は痛々しかったが、魅了されたのも確か。

私の心も火傷しちゃった。
すいません。調子乗りました。


そんなことを考えていると、ある部屋の前で止まる。
促されるままに入ると、着物を投げ渡された。

あまり着物には詳しくないが、上等なものだということだけは分かる。
いくら同盟を組んだからっていいのだろうか。
私の考えていることが分かったのか、成実が笑う。


「細かいこと気にすんなって。どーせいらねぇし」

「成実さんの?」

「成実でいいよ、黒兎ちゃん」

「ちゃんづけするなと何回言えば……」


さらしがあるから大丈夫だろう、と血まみれの着物を脱ぎ捨て、同時に肌にこびり付いた血を拭った。
流石に下は脱げないな。貰った着物を羽織る。
と、壁にもたれかかっていた成実が動いた。
すぐに振り向き身構えると、目があった。


「女の子が男の目の前で着替えちゃいけねぇよ?」

「……だよな、私女に見えるよな。あまりに間違えられるから不安になってたけど」

「身長高いもんね。それにさらしまで巻いちゃってるし」

「内臓の飛び出し防止の為らしい、よ!?」


素早く懐に入られたかと思うと、押し倒された。
殺気は感じないが、体が危険信号を発している。


「ただ人間じゃないとみたいだね。もう傷は塞がってるし。そうだ、痛感とか無いんじゃない? 温感もかな」

「な、なんで……」

「俺洞察力すげーの」


にっこりと笑顔になる成実にパニック状態に陥る。
再生力が強いだけならまだしも感覚がないことまでバレるとは。
どうしよう、才蔵にバレたら。
どうしよう、皆にバレたら。
これ以上異質として扱われたくない。人間として扱われたい。


「誰にも言うな」

「どうしようかなぁ」

「出来る限りなら何でもするから!」

「こんなことでも?」


にやりと歪んだ口が首筋に埋もれる。
といってもほとんど感覚のない私には反応のしようがない。
ただ、ちょっと恥ずかしいけど。


「なんだ、性感も無しか」

「悪いね」


へぇ、私性感無いんだ。
ま、あってもなくても意味無い気がするけど。
誰かと愛し合うつもりなんてさらさら無い。

と、僅かに人の気配が近づいてくるのに気づいた。
こんな場面誰にも見られたくない。
成実の肩を押し返しながら、小声で囁く。


「いい加減どけ……」

「黒兎、ここか?」

「げ、才蔵」

「な、ななな……っ!!」


忍特有の素早さで気配が近づいたかと思うと、障子が開いた。
どう言い訳しようにも誤解しか生まれない状態に、私はあちゃーと目を逸らす。
才蔵は私と成実を見比べた後、上司の迷言を叫んだ。


「破廉恥な!!」



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