玖
「OK.friendになってやらないこともないぜ」
「なりたくないならいいよ」
「誰がんなこと言った! 友達になるんだろ!」
先刻までの威圧的な態度はどこにやら。
動揺を露にする政宗に、私は嘲るように嗤う。
「Japanese onlyになってるぜ?」
「発音よく言えるのかよ」
「まぁね」
簡単な英語限定だけどさ。
ゆっくりと政宗に近づくと、小十郎がそれを止めようとした。
だが、それを手で制止し、政宗の目の前で跪く。
「いい事教えてやるよ、政宗。There are three kinds of friends:
best friends, guest friends, and pest friends.」
(友人には三種類ある。親友、ゲストとしての友だち、
そして厄介な友。)
「……If so, you are a troublesome friend. 」
(じゃあお前は厄介な友達だな)
「Now.」
(さぁね)
悪態を吐く政宗に、私ははぐらかすように笑った。
厄介だろうと悪友って言葉もあるし、そんな仲で良いと思ってる。
親友なんて大層なものに初対面でなれるわけないし、なる気もない。
「仲良くしようか、政宗」
「OK.同盟組んでやるよ」
舌打ち混じりに貰った許可に、私は勢いよく振り返った。
信じられない、と驚く才蔵に、諦めてため息をつく小十郎。
障子の向こう側で聞き耳を立てていた重長や成実は笑顔を浮かべていた。
「梵、兵卒達に伝えてもいい?」
「てめぇは酒飲みてぇだけだろ、成実」
「バレたか。ま、めでたいことが二つもあったんだからいいだろ?」
「二つ?」
「同盟組めたってことと、梵に初めての友達」
語尾にハートがつきそうなほど楽しそうに言いはなつ成実の言葉に、政宗は顔を紅潮させた。
うっわ、すごい可愛い。携帯が壊れていなければ即写メるよ。
成実は政宗の反応をケラケラと笑うと、私の方に視線を向けた。
見透かしたような視線に、一瞬たじろぐ。
う、なんかこいつ苦手かも。
「黒兎、ちゃんだっけ?」
「ちゃんづけはやめろ。気持ち悪い」
「着替え用意したげるからついておいで。そんな格好じゃ気持ち悪いでしょ」
「知らない人にはついていっちゃ駄目っていわれてるんで」
「俺、伊達成実。よろしく」
「蒼依黒兎」
「コレで知らない人じゃないよね。じゃ、いこっか」
「うぉおおう!?」
何!? 何何!?
この世界に来て初めてこんな馴れ馴れしい人見たよ!?
佐助みたいなタイプみたいだけど、警戒とか疑いとかいうのを感じない。
しかも抵抗しようにも憎めないっつーか抗えない笑顔。
「兵卒達に伝令は?」
どうにかその笑顔から逃れようと、話を逸らす。
成実は一瞬ぽかんとした後、声を発した。
「あぁ、忘れてた。
野郎共ぉおおお! 筆頭に友達が出来たぞぉおおおおお!!ついでに武田との同盟が決まったぞぉおおおお!!
宴の準備だぁああああああああああああ!!!」
「すごい伝令だな、おい」
ある意味武田軍と伊達軍って似たもの同士だな。
と、思わず遠い目をしたのは才蔵も同じだった。