肆
説明するのもめんどくさくて、実はねと曖昧を笑ってやる。
素直っつーか、真面目っつーか。才蔵ってある意味忍っぽくないな。
可愛いからそのままでいて欲しいけど。
「しかし……」
何やら重長が不満げに呟いた。
「歩き神子はきもちよくなる芸をすると聞いたのだが、全くきもちよくならぬな」
……なんかサラリと爆弾投下したよ?
誰から聞いた。いらんこと教えやがって。
私も色々教えたくなるじゃんか!
「まぁ、なかなかに面白かったぞ!
褒美に何かくれてやろう。何がよい」
待ってました。
ニィと笑うと、びくりと重長の体が揺れた。
「じゃあ城に招待してくれよ」
「なっ、城だと……?」
「褒美、くれるんだろ?」
「むぅ、しかし……」
意外にしぶといな。
簡単に見知らぬ人間を城にあげることは出来ないんだろう。
正しい判断だ。だからと言って引き下がるわけにもいかないが。
「ま、嫌ならいいけどさ。重長みたいな子供に無理言うのも悪いし」
「重長は子供ではない! そこまで言うなら招待しようぞ」
「ついでに父上にも挨拶したいなー」
「良いだろう」
子供は単純だ。良い意味でも悪い意味でも。
純粋で素直、無垢で無邪気、元気で活発。
如何にも人間らしい。首を切り落として飾りたいくらい。
……あれ、何を考えた?
理性の影から見え隠れする破壊衝動。無意識に死を欲してた。
「どうしました?」
「あ、あーえと、ちょっと重長の将来を期待しつつ食べごろにはまだまだかかりそうだなと思って」
「悪食」
「叉遊ちゃん酷い!」
可愛い顔で、声で、辛辣な言葉吐いたよ!?
ダブルでショックだ。
道中重長に慰められながら城門まで来ると男が走ってきた。
同時に重長の顔も輝く。
「重ぇー」
「成実!」
「どこ行ってたんだ? こじゅに怒られっぞ」
「歩き神子の芸を見ておったのだ」
「歩き神子……? あぁ、うちの重が迷惑かけたみてぇだな。許せ」
「許さん」
「即答かよ」
「冗談だよ。あ、そうそうお宅んとこ邪魔するけど……「重長」
男が重長の目を塞ぐのと才蔵が飛び退くのは同時だった。
稲妻だ。
突然蒼く光る雷撃が喉笛を裂いた。
血しぶきが花火のように散る。吹き出たばかりの血は周りを赤く染め上げた。
地面も、服も、視界も。
聞き覚えのある低い声が鼓膜を震わせた。
衝撃で仰向けに倒れる。受け身を取ることも忘れてた。
「武田の鼠が、気付かないとでもおもったか。文句も懺悔も思う存分聞いてやるさ、あの世でな」
「黒兎!?」
「武田め、卑怯な小細工しやがって。それがてめえらのやり方なのか?」
「違……っ!」
「違うよ」
稲妻の正体、小十郎の顔が青ざめた。
驚愕、恐怖、驚異、驚嘆。似たようで違う思いが交差した表情。
喉元を裂かれたせいか、声が掠れる。
「あの世に受け入れ拒否された場合、文句はここで言わせて貰っていいのか?」
化けもん
私より掠れた声で悪態は吐かれた。