壱
嗚呼、彼の竜の蒼きこと
右目を背に、稲妻を放つ竜は不適な笑みを浮かべた
異国の言葉で死を、戦を、華を語る竜
なんと気高きことか
なんと哀れなことか
だがそんな竜の左目に映る世界を見てみたい
四人の嫁を娶ることに成功した私は、佐助と才蔵を抱きしめた。
はじめは腕の中で喚いていた二人だったが、抵抗は意味のないものと理解したらしい。
なすがままにされている。
……なんかつまんないな。
温もりも感じないこの体。
もっと真っ赤な顔で焦ってくれたら楽しいのに。
私は背中にまわしていた手を臀部へと滑らせてみた。
予想通りビクリと震える体に、耐え切れず笑みを零した。
「黒兎、長の臀部まで!」
「うむ、来るしゅうないぞ」
「こっちが苦しいってば。気持ち悪い」
「辛辣すぎるだろ。男が尻撫でられただけで動揺すんなよ」
「動揺する!」
「あまり遊ぶでない」
「うほーぃ」
気付けばお館様に首根っこを掴まれ、宙ぶらりんに。
下手すると首が絞まりそうな状態だが感覚がないせいで絞まってるのかよく分からない。
困ったもんだね、この身体にも。
お館様は私をぶら下げたまま言った。
「お主には奥州に行ってもらいたい」
威厳のある低い声はスピーカーを通して聞くものより迫力がある。
虎の唸り声に抱いてください! と土下座したくなった。
しかし今の私は宙にぶら下がっている状態。仕方ないから喘いでください! とお願いすれば、佐助から腹に拳を突き入れられた。
調子乗りすぎましたよね、はい、分かっています。
畳に足をつけば、佐助の絶対零度な視線から逃げるようにお館様の背中に逃げる。
ついでに兜のモフモフに顔を埋めた。
「奥州って伊達政宗のいる? 確か前の戦は伊達相手だったんだよな」
「その通り。お主には同盟の話を持ちかけて欲しいのじゃ」
「私が?」
「まだ若いがされど立派な牙を持つ竜。手を組むことが出来れば甲斐にも奥州にも心強い」
「……失敗したら?」
「失敗し、再び戦が始まることになればお主の力を借りることになろう」
何故。出会ってすぐの人間にやらせる任務ではない。
ということは失敗しても構わないということか。
なんつー脅迫だ。
淡々と告げるお館様は茶目っ気なんて微塵も感じない。本気で私に伊達を殺せと言ってる。
しかも伊達を殺すってことは伊達を慕う大勢の兵も殺すことになるだろう。
限り無く重い任務。だけど私に拒否権なんて元々与えられてない。
「やってやるよ。同盟成立させてみせる」
「ちなみに黒兎には才蔵をお供としてつける」
「新婚旅行か」
「見張りだ、馬鹿」
「才蔵に馬鹿って言われたー! お館様慰めてー」
「よしよし」
ぎゃあああああああああ!
おおおおおや、おや、おやっお館様に頭撫でてもらった!?
ヤバいよ、萌だよ! 嬉しすぎる!
拙者、興奮で鼻血が…っ!
「そういや才蔵、傷大丈夫なのか?」
「あ、あぁ。幸い骨折だけですんだ」
「それって幸い?!」
「内臓に骨が刺さってなかったから」
「『喉に骨が刺さったー』ぐらいの軽さだけど重いよ!」
「まぁまぁ才蔵なりの気遣いだからさ。心配するなって言いたいんだよ」
な、なんてたまらんツンデレだ!
ニヤニヤと笑う佐助に才蔵がつっかかる姿を見て、さらに萌えたのは言うまでもない。