「しょうがないなぁ」


やれやれとため息をつかれ、体が浮く。
当初の俵を持ち上げるよりも酷い持ち方で。
持つ気無いな、こいつ。

首根っこを掴まれ、半ば引きずられる形になった私は唯一自由な口を動かし、反抗した。


「女の子に向かってこの扱いはなんだ!」

「百歩譲って女の子は認めてあげるけど、人間とは思えない」

「酷! 佐助酷すぎる!」


あまりの物言いに怒鳴るが、私自身人間じゃなくなった気がしていた。
痛みも温度も感じないし、何もないとこから鎌を出す。体は反抗期だし、笑いながら幸村を殺そうとした。

れっきとした化けものじゃないか。
あんなものが私の中に巣食っているなんて。
気持ち悪い。恐ろしい。
隙を見せたら最期、アレに食べられてしまうのではないだろうか。

そんな私を生かそうとするお館様もお館様だ。
確かに飼い慣らせれば使える駒になるが、下手すると逆に喉元を食いちぎる獣。
理性なんてない。殺すことしか考えていない。

もっと言えば、それを私として認めたくなかった。



「はい、ここがあんたの部屋だよ」


ペイッと投げ入れられた部屋は意外と広く、てっきり牢にでも入れられるのかと思っていた私は拍子抜けした。
おまけに布団まで敷いてあり、投げられたときの衝撃は思ったより少なかった。
うつ伏せで布団に寝っころがる体を転がしてもらい仰向けになったところで、佐助と目を合わせることに成功。

少し動くようになった首を佐助に向け、笑う。


「佐助、また明日」

「……おやすみ、黒兎」


ま、また呼んでくれた! しかもおやすみなんてまるで新婚夫婦!!
最高潮に上がるテンションのまま佐助愛してるー! と叫ぶが、抱きついたり押し倒したりすることは叶わず。
代わりに煩いという佐助の声と、ピシャンという障子の音が冷たく響いて消えた。




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