違う。違う。違う。



私はそんなの願っていない。
望んじゃいない!

だが一度スイッチの入った体は幸村を殺そうとしていて、制御出来ない。
鎌から手を離そうにも力強く握り締められて、足を止めようにも走り出したまま止まらない。

出来たのは顔を苦悩に歪ませ、叫ぶことだけだった。


「逃げろ、幸村ぁっ」

「黒兎!」


ドクン。胸が再び高鳴り、体が硬直する。
全身の力が抜け、鎌は手から離れ、消えた。
受け身をとることさえ出来ずに正面から倒れる。



「佐助ー……」

「……なぁに?」

「やっと愛を込めて呼んでくれたな」

「ばっかじゃないの」



冷たいようで優しいその言葉に、ふにゃりと柔らかい笑みがこぼれた。
良かった。私は幸村を殺さないで済んだ。

人殺しにならず済んだんだ。



「大将どうしますか?」

「……黒兎、その力己自身で制御出来ぬのか」

「見ての通り暴走注意。さっきも幸村殺しかけたし」

「しかし佐助の声で正気に戻ったようじゃが」

「声じゃないよ。名前」

「名前とな?」

「誰でも構わないわけない。私は蒼依黒兎以外の誰でもないからな」



ただ呼んで欲しかった。私の名前を。
暴走していた時、明らかに私は私じゃなかった。
だがら誰かが呼んでくれたら私は戻れると小さな確信を持っていた。


私の予想通り佐助の愛ある声に暴走タイム終了。
必死な呼び声に、今ならザビーみたく「愛ユエニー」なんて叫んでもいいと思った。だって萌えたから!


「黒兎、動けるか?」

「いんや、無理ー」

「佐助、黒兎を抱えて部屋まで連れていけ」

「なんで俺様が!?」

「私の嫁だからさぶっ」


頭を踏むとは何事ですか。
本気と書いてマジな主張に、佐助の照れ隠しが。
おかげで汗やなにやらが染み込んでいそうな床とキスする羽目になった。


「働けい」

「どんな理由ですか!」

「佐助なら名前を呼べば暴走を食い止められるじゃろ」

「ういむあやおあかたさむぁでもえいきだお」

「…幸村やお館様でも平気だよ?」

「えいあい」


正解、と親指を立てる。
本当は私ら以心伝心相思相愛だね! とも言いたかったが体重をかけられそうなのでやめておいた。

痛くも苦しくもないけど、嫌なもんはイヤだし。
第一私はMじゃない。


どっちもいけるリバだ。

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