参拾壱

「質問をひとつ、よろしいですか」

「はい、光秀くん。どうぞ」

「貴方たちがいなくなったあと、どうなるのでしょう?」


私の発言などどうでもいい、といったみっちーに少し安心した。
つまらない。と私への興味をなくしていることにも気づいた。
そりゃあそうだ。幻滅されてもおかしくないと、自分でもわかっているもの。

ゆっくりと首を傾げるみっちーの、問い。
神様は、待っていたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。


「終わりが、少し遠くなる世界が待っているよ。慣れるまで時間がかかるかもしれないけれどね」


意味のわからない答えだったが、みっちーはそれ以上の追及はしなかった。
小さく頷くだけで、信さんをちらりと見やる。
殺せるのか。殺せないのか。信さんに対する熱視線を遮る蘭丸と目と目で威嚇しあっている。

仲良くしろよ。

そう思いつつ、これから消えていなくなるのだからと口を噤んだ。
見えない壁に阻まれ、誰の手も届かない。


「黒兎、ワシは既に嫌われたようじゃからな。ついでに傷をえぐる真似をさせてもらうぞ」

「……なに?」


ふいに口を開いた武田さんに、ぎくりと体が強ばった。
そういえば。武田さんは知っていたのか。
たった一つ聞いてきた未来の情報。戦があるか、平和かどうかの確認。
時代からすれば傷も、身体の細さも、別に不思議なことではない。
だからこそ、別に隠さなくてもいいと思っていたし、隠さなかった結果今の今までバレることはなかった。


「世界の管理者と名乗る黒兎よ。神子である黒兎の能力は、本人が望んだもの、だな」

「うん、そうだよ。本人が無意識下に望んでいるものもあるけれど」

「では、その人殺しの能力はなんのために望んだ」


……嘘だ。
私の能力が、望んだもの?
痛みを感じない。空腹を感じない。足が速くなる。人を殺せるほどの怪力。
誰を殺すための、能力?
嘘だ。逃げたいなんて思ってない。だって、え、嘘。


「ワシは未来で死に、それから病を抱えたこの身体に戻った。
明智はああ言ったが、ワシは未来といっても一年後の未来から来た。そして、今回が二度目だ」

「手間をかけさせてすまないね。神候補は絶対に必要だし、神子候補も必要。謙信は想像以上のイレギュラーな存在になっちゃったけれど。
何千もの世界から条件に合う私を探すのもすっごく手間だったし。結果、道案内人は使い回しになってしまったよ」

「別に構わぬわ。だが、お主がやろうとしていることは止めさせてもらおうか」


見えない壁に阻まれるはずが、伸びてきた武田さんの腕が私の腕を掴んだ。
ぐい、と思い切り引っ張られ、そのまま武田さんへと……行く前に突き飛ばした。
思ったより強く突き飛ばしてしまい、反動で尻餅をついた。
今度はちゃんと壁の中に入ることができた。


「っな、んだ」

「黒兎はワシと違いまだ若い。死なずともよいだろう。
お主も、自分の足で歩くことを知った。親に会わず、親に合わせず、好きに動くことができた此処は苦しかったか」

「……」


そんなことは、ない。
だが、強く否定することもできず、武田さんから視線を逸らした。
隣で神様が大きくため息をつくのを見た。
神様の視線の先には、えーと、なんだこの状況。

大きな手に握り締められた松永と、その横を駆ける浅井夫婦。
つか、また長政腹壊してるだろ! 顔真っ青で、内股走りになってるじゃないか!!
そこらへんでしとけよ。本当、こんな場面で漏らされたら困るんだけれど。

更に謙信さんまでいる。
服の濡れたかすがに上着をかけているが、肩のところが薄らと凍っているため、かすがが寒そうだ。


「流石軍神というべきか。速いね」

「おほめにさずかりこうえいです。ですが、はなしのとちゅうでさるのは、いささかじょうしきはずれではありませんか。それと、」


黒兎。
謙信さんに初めて名前を呼ばれたことに驚き、目を丸くする。


「こどものうちにすきにいきなさい。こどものしっぱいはおとながぬぐいます。あなたは、あまえなさい。すきにあまえても、ゆるされるのですよ」


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