弐拾参
「ぎゃあああっ、なにあれなにあれなにあれ!! 触手!? やめて、乱暴するつもりでしょ! エロ同人みたいに!!!!」
「黒兎煩い。安心しろ、私が居る限り一定以上近づいてはこない」
かすがの言葉の通り、黒い触手は一定以上の距離を保ってくれている。
地面に出来た真っ黒な影が地面を這うように私たちを追い、そこから生えているこれまた真っ黒な触手が何度も手を伸ばそうとしてきているのが見えた。
こぽりと沼から現れたようなおぞましい手は感覚がある今、肩から手首にかけて鳥肌が立つほど不気味だ。
どういうことなのか。
黒い触手を見るのは二度目。一度目は家康によって助けられた。
そして今回のかすがの発言。市が操っている触手……。
「分かった、黒い触手は露出している人間に弱い!」
「変態!」
「あだっ」
ま、まさか頭突きされると思わなんだ。
いざ脱がんと服に手をかけた瞬間、真っ赤な顔の慶次に頭突きされてしまった。
久々に変態、って罵られた気がする。半兵衛といい、みっちーといい、私を上回るど変態の相手をしてきたもんな。
私、頑張った。めっちゃ頑張った。
慶次は、私を抱えているというのに軽やかに地面を蹴る。
動きに合わせて髪の毛が大きく揺れている。
そして、少し後ろを走るかすがの胸も大きく揺れていて、自分のものと比べ、泣きたくなった。
とまぁ、そんなことはさておき。
二人とも行き先は知っているようだが、私が聞いても答えてくれない。
仕方がないから思案することにした。
まずは神様の目的。
これが一番の疑問であり、悩みの種である。
こいつの目的さえ分かれば、解決の糸口が見つかるのに。
目下の目的としては私を次期神様の嫁にすること。それも松永、みっちーに絞られている。
あとは……そうだな。自分以外のために人を殺すこと、か。
まだ私はその条件をクリアしていない。
あいつは何を狙っている?
そういえば神様は私のことをもう一人の『私』と言っていた。私が別世界の人間というのなら、神様はこの世界の人間なんじゃなかろうか。
だとすれば、そこから推理は出来そうだ。
例えば、そう、あいつは実のところ神様でないとすれば。
幸村が火を操るように、小太郎が空を滑空できるように、市が謎の手を従えてるように、そんな不思議な力を持つだけの人間だと考えたらどうだろうか。
「慶次、下ろして。もう自分で走れるから」
「戻る気だろ?」
「なわけないじゃん。後ろから黒い触手が追ってきてるのに、そんな無謀な真似なんてしないって」
「黒兎様は嘘を吐かれるときに、足の指を丸める癖がございます」
「……黒兎、」
「いやいや、それよりもここに軒猿さんがいること突っ込もうよ!!」
黒子の格好をした軒猿さんがひょこりと顔を覗かせた。
いつものように馬鹿丁寧な敬語で、馬鹿みたいに大きな爆弾を投下する。
布のせいで表情は一切読み取れない。
「私は、もとより上杉に仕えております故」
ただ、なんとなく笑っているように感じた。