拾捌
私の前へと進み出た元就は、嬉しげに裾を摘んで、笑んだ。
第二衣装を身にまとった元就の美麗な笑顔に、一瞬たじろぐ。
元就が綺麗な笑顔を浮かべたときにはとんでもない爆弾を投下してくるんだよな。


「我を娶るためにわざわざ用意するとはな。殊勝な心がけよ」


違ぇええええええ。とは一切言えない顔に慄く。
婿衣装ではあるけれど。嫁の為でもあるんだけど。
自信満々のドヤ顔に否定も肯定も全然出来ない私は、ノーと言えない日本人なんだろうな。うん。

ゆるりと手を肩にかけ、上から下まで眺めた元就は、


「安心するがいい。戦が終われば挙式だ」

「それフラグだからやめろ!」


全力で折ってやるからな! フラグクラッシャーなめんなよ!
反射的に怒鳴るような形になってしまったが、死亡フラグをこんなところで立たせてたまるか。
説明をするように急かせば、元就は不満げな顔で渋々武田さんに向き直った。


「貴様がここに来たのはいつの話だ」

「さて……、いつだったかのう」

「老衰め。では管理人、貴様に問うてやる。いつだ」


元就の問いかけに、止めかけていた思考が動き出す。
本当の情報ばかり見える能力に頼って、言葉の裏側を考えるのを忘れていた。
嘘でも、本当でも、情報には違いない。
そして、嫌な仮説が一つ立った。証明する方法も思いついた。
だが、証明したところで受け入れられる自分を見つけられない。

管理人は肩を竦め、長いため息を吐いた。
表情をうかがうことが出来なくとも、反応からして容易に想像できた。


「……やれ、面倒な奴らばかりだ。空想や妄想と笑われても可笑しくない事実に気づくとはな」

「やはり、これは“初めて”の事象ではないか」

「非常識だと我ながら考えていたのだが、気づくパターンもあるのか。参考にさせてもらおう」


手を顎にやり、一人ごちる管理人を睨みつける。
ありがちなループもの。そう笑うには、まだ早い。
ただのループものならば、管理人が“今”に固執する必要も、私を選ぶ必要性もない。

ループよりも面倒な世界に連れてこられてしまった。

全て自己満足で自業自得の世界。
今起きている事象は全て、私のせいだ。

早足で管理人へと歩み寄り、大きなフードを剥ぎとるも、一切抵抗はせず。
予想していた顔に、正直吐き気がした。


「なぁ、管理人。いや、神様になった黒兎と呼んだ方がいいのかな」

「……ご名答。流石私だ」


文字通り自作自演。
フードの下から現れた自分にそっくりな顔は、酷く濁った目を細め、笑った。


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