拾陸
皆の視線がみっちー、松永、武田さん、謙信さんへと移る。
だが謙信さんは微笑んだまま首を横に振るので、視線は減った。
少しばかり疑問だったのだ。
未来への情報にさして興味を抱かないところや、うっかり漏らした横文字に対して疑問を持たず答えることがあったこと。
三人とも表面上のことだけ覗いただけではあったけれど、記憶と時間軸にずれが生じていた。
更に言えばみっちーの記憶には、燃え盛る本能寺が見えた。
そこから仮説を組み立てるのは容易いことだった。
私が別世界から来た人間なのだ。多少非常識な事が起きても可笑しくはない。
みっちーは集う視線など一切気にしていないようで、鎌を首に宛がったままの私を見ながら、楽しそうに言葉を続ける。
「貴方の選択肢は正解ですよ。それで、貴女は元の世界に戻れます」
「……喋りすぎだ、馬鹿者」
「おっと、口が」
手を口に当てるみっちーと、手を額に当てる管理人。
は、どういうことだよ。目を大きく開いて、二人を見る。
だが、二人とも自分で考えろといった風に、こちらに丸投げだ。
と、後ろから羽交い締めにされる。吃驚していたせいで、鎌も簡単に奪われてしまった。
かすがの手に渡った鎌はすぐに消えたものの、また出そうと思えばすぐに出せる代物。
だけど両腕を押さえ込む小太郎を怪我させても困る。
冷たくあしらおうと思ったが、かすがの泣き出しそうな顔に口を噤んだ。
怒ってる。私のために、怒ってる。
馬鹿だと言われた。本当に馬鹿、だと。
「ごめん、かすが。馬鹿でごめん。私はこの地獄を終わらせたいし、真実もちゃんと知りたい。
かすがは化け物じゃないと言ってくれたけど、かすが達を同じ身体に、同じ目に遭わせたくないんだ。
その為ならこの命何度だって痛っ!」
頭部天辺に強い打撃。
小太郎がチョップをしていた。無音で手刀を構えた小太郎から妙な威圧を感じ、頬どころか背中にまで汗が伝う。
両腕は解放されている。死ぬ事も無い。なのに何でこんな怖いんですかねー。
小太郎と真剣勝負もした事あるけれど、ここまで威圧感はなかった。
純粋な怒り。
うぉ、小太郎が怒っている。
その上第二撃を繰り出そうと構えてる。
だがしかし! ここは強気に出るのがいいってばっちゃも言っていた!
「な、殴りたいなら殴れ。撤回するつもりはない!」
覚悟を決めるもやっぱり怖くなり、目を瞑ると、何故か佐助に殴られた。
しかも覚悟を決めていない鳩尾を殴られたから、想像以上にダメージを食らってしまった。
冷たく見下ろす佐助に声を大にして怒りを示す。
「お前ふざけんなよ! なんで佐助が殴ってんのさ!! 私がお前をぶち殴るぞ!!」
「はぁ?」
「……くっ、久しぶりの冷たい扱いにちょっと嬉しくなる自分が居るのが怖い」
「黒兎ってばどんな目に遭ってたのさ」
「自分以外につっこみが見当たらない生活は思った以上にしんどかった……。超乳首軍っていう安定のつっこみの後だったから更に堪えた」
「変態の集まりみたいに言ってんじゃねえよ! 長曾我部軍な!!」
ふう、やっぱり安定のつっこみだな。安心する。
後ろから管理人の遊んでんじゃねえよって視線を感じるけど、今だけは無視させてもらおう。