寸前まで頭が千切れ、まるで首を傾げているようになっている人。
腹に大きな穴が空いて、向こう側が見える人。
下半身が無くなって、出ている内臓が人魚のようになっている人。

阿鼻叫喚。
下ろされた場所は、まさに地獄だった。
むせ返る血の匂いに吐き気がこみ上げる。
裸足で血溜りを踏んでしまうも、足跡をつける余裕がないほど血が広がっていた。勿論避ける余裕もない。
呻き声のような、嗚咽に似た、泣き声が戦場を埋め尽くす。

皆、生きている。
皆、動いていた。

小太郎も、才蔵も、凄惨な光景に気圧されているようだ。
無い腕を求めるように、右肩がずきずきと痛む。
死にたい。誰かの呟きを引き金に、走り出した。

この地獄を作り出した神のなりそこない。
松永がどこかにいるはずだ。

動く死体の海原を駆け抜ける。見た事がある顔、聞いた事がある声。
目を逸らし、耳を塞ぎ、松永を探す。
全力疾走の上、化け物の力で楽をしていたから体力の限界が想像以上に早く訪れたが、足を止めるわけにはいかない。

戦いは、終わっていない。爆音、銃撃音、悲鳴、喧騒。
こんな状況でなんで戦おうとしてるんだよ。
胸倉を掴んで問いただしたいが、そんな時間も無い。

濡れた地面に足を取られ、よろめいた瞬間、背中を何かが鋭く掠める。
笑い声に振り向けば、恐ろしい笑顔を貼り付けたみっちーが佇んでいた。


「肩を叩こうとしただけなのに、そんな怯えないでくださいよ」

「嘘つけ。両手が鎌で塞がってるぞ」

「……貴方のせい、では無いようですね。悪食ではありますが、虫程度の常識はありますし」

「詰るか褒めるかどっちかにしろよ。で、信さんは殺せなかったんだ? 腹から血が出てるけど、よがってんの?」

「誤解を招くような言い方やめてください、軽く達しただけですよ」


最低だよ。何に対する誤解を弁明したのか教えろよ。
会話の最中も切りかかってくる兵士はいたが、大体みっちーによって切り捨てられている。
信さんを殺した後か、それとも返り討ちにあった後か。
ぼろぼろのみっちーは、ふと寂しげに表情を曇らせた。


「え、なに。賢者タイム?」

「そうですね、大分近いです」

「……否定しろよ」

「信長公を殺せなかったとはいえ、想像していたよりずっと快感で、予想していなかった空しさに、どうすればいいのか分からなくなってるのです」


さらりと垂れた長い髪が、みっちーの顔を覆い隠す。
みっちーの足元にある血溜りが、小さくなっていることに気づいた。ずるずるとみっちーへと吸い込まれている。
もしや、と周りを見れば、傷を負った人間は再生をしている。それも、誰かを傷つけた分だけ。

嫌な事実に気づき、どうして武器を捨てないのかも理解した。
本当に、悪趣味。


「みっちー、その答えはお前の中さ。私が何を言っても、答えにならない」


みっちーを置いて、また走り出す。
私は、私の答えを見つけなければ。


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