朝が来ればまた殺される
母屋から離れ、厠から近い建物が私に割り当てられた部屋だ。
布団と文机が一つずつ置かれているだけで生活臭は全くない。
空腹どころか殆どの感覚が死んでいる上、趣味はセクハラ。
お金のかからない生活をしている。
化け物だと知れ渡っているが、毎晩布団には入っていた。
一日中起きていても武田の人間(特に佐助)には疎まれるだけ。
今も天井裏では不審な行動は無いかと忍が見張っている。
余計な事をしていては殺される回数が増えてしまう。
武田に来て暫く経つも、逆ハーどころか毎日殺されてばかりだ。
伊達に同盟を持ちかけるよう言われたときは信用してもらったのだと糠喜びしたせいで現実の厳しさに打ちひしがれそう。
心の臓を抉られても、首を落とされても、五体バラバラにされても。
身体は何事もなかったように再生し、心だけが死んでいく。
狂っている。
何が、誰が、私も。
布団に寝転がり、障子の隙間から流れ込む月光を眺める。
明日はどんな風に殺されるのだろう。
恐怖はない。鉛のように鈍く重い恐怖は水底に沈んだ。
かき混ぜれば一時的に浮き上がるぐらい。
人間のふりをすればするほどドツボにハマる。
開き直って死を受け入れるも、死は一つしか持てないらしい。
これ以上死ぬことの出来ない体を持て余し、明日もまた殺されるのだ。
まだ笑える。大丈夫。
障子を人一人分通り抜けられるぐらい開けた。
部屋が少しは明るくなるかと期待していたが月の光は弱々しかった。
布団を深く被り、遠い朝を待った。
朝が来ればまた殺される 伊達編と徳川編の間の話。
眠れぬ夜の過ごし方。