あんたにこの世界は似合わない


ひくり、と口元がひきつるのを感じた。
確かに私は感覚がない。
痛みも熱さも感じず、普通ならば死んでしまうほどの苦痛も耐えられる。
この時代にある聞くも知るもおぞましい残虐な拷問だって平気だ。

かといって、手を広げて拷問を受け入れるほど自虐趣味は無い。
自分の肉が切られたり、骨が折られたり、内臓を抉り出されたり、目を潰されたり。
そんな状況を楽しめる人間がいたら、それこそ化け物だ。


正面に立つ欲に忠実な男は、己の欲を前面に押し出し、笑う。
縁側でまどろむ姿だけなら仄々と出来るが、男の手には火薬が仕込まれているのを知っている。


常闇に灯る一つだけの火なんてロマンチックだが、その正体が自分の焼死体だなんて笑えない冗談だ。



「松永、冗談だよな?」

「私は欲望に素直な人間だよ。私達は肝胆相照らす仲だと思っていたが私の思い違いのようだ」

「あぁ、私が人花火として打ち上げられ喜ぶように見えるんだったら立派な思い違いだ。
今月で何回服駄目にしたと思ってるんだ。ただじゃないんだからな」

「では卿には召し物でも贈ろう」

「召し物は嬉しいけど、人花火の代償なら断る」



残念、と目を伏せるが口端は確かに上がっており、愉悦さを隠せていない。
元々隠すつもりなどないのだろうが、もう少し私に対して容赦というものを持ってくれないのか。

卿を打ち上げたい。
どんな口説き文句だ、初めて聞いたよ。
夏の風物詩として花火でもしようかと誘われた時点で断っておけばよかった。
まさか自分を打ち上げて人花火だと楽しもうとしていたなんて誰が予想しただろうか。


少なくとも私は予想していなかった。
酒ではなく茶を飲んでるのはよく毒を入れられる為であって、爆破を懸念したわけじゃない。
松永の前で安心して酒が飲める日は来るのだろうか。
絶対に来ないであろう日を想い、目を細める。



「卿も女子なら綺麗になりたいと思うだろう?」

「普通の女子は自分が花火になりたいと思わないよ」

「卿は屁理屈ばかりだな」

「理屈しか言ってないつもりだけど」

「理屈など吹き飛ばしてしまえば無意味」

「吹き飛ばすな」



どうしても人花火をしたいのか。
松永のことだから、一般兵卒でも吹き飛ばしていそうなのに。
何故私限定? 一途なのはいいことだけど、爆発するほどの恋心いらない。

言わずもがな私の疑問を汲み取った松永は、詠うように答える。
手が伸びてきたかと思えば指先が頬に触れ、思わず身体を震わせた。


「何度でも蘇る様は醜く神秘的だ」

「どうも」

「何、怯えることはない。焼死体を作るのは得意でね。
漆黒に崩れる炭から、紅蓮に溶ける血肉を露出させることもできる。選びたまえ」



ミディアム? レア? ウエスタン?
ステーキ肉の焼き加減でも問うかの如く尋ねる松永に、私は眉を顰める。
焼死体は斬られたときよりも再生が遅くなるのが嫌だ。
爆発で大火傷を負った時の痛みを思い出して、更に嫌になる。

髪を耳の後ろにかけると、顔を寄せてきた。
直接響く低音は予想していたものの、感覚があれば青ざめそうなほど冷たくほの暗い。


「卿ほど死が似合うものはいない、よ」


囁いた後、松永は顔を歪め笑みを作る。
逃げたかったが、離れれば爆発されることぐらい安易に想像できる。
招待されたときから術中にはまっていたってことか。

悔しくて私も囁いてやった。






あんたにこの世界は似合わない



(偽善者ばかりの世界じゃ辛いだろう?)
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