今夜は寝かさない

お館様は優しい。
戦の時には雄雄しく、厳しいこともいうが、部下に凄く慕われている。
かくいう私もお館様を慕っている一人で、娘のように可愛がってもらってる。


だが!
私は部下でも娘でもない。
お館様の旦那様なのだよ、諸君。


悲しい時も嬉しいときも病めるときも連れ添い、
朝はおはようのちゅー。夜はおやすみのちゅーをするべきだ!!



「ちょ、佐助聞いてる!?」

「はいはい、聞いてる聞いてる」



折角熱く演説していたというのに、洗濯物干し始めるってどういうことだよ!
どんだけおかんが板についてるんだ。
違和感無さ過ぎてちょっと笑えないだろ!

部屋の中から、庭にいる佐助に忠告しておいた。



「二つ返事は聞いてない証拠だよ」

「黒兎が病んでて、もう手遅れって話だろ」

「実は私不治の病なんだよね。佐助が脱いでくれたら治ると思うけど」

「くたばれ」

「佐助冷たい!! お館様を見習え!!」

「……じゃあ大将に慰めてもらえば?」

「たまには佐助も慰めてくれたっていいじゃんか」



佐助も私のお嫁さんの一人なんだし!
と笑顔で叫べば佐助の手が止まった。
じとりとこちらを睨んだかと思えば



「なんで俺様がついで扱いなわけ?」



ひっくい声で怒られた。
う、わ、なんか禁句言った?

すぐに洗濯物と向き合ってしまった、洗濯物を伸ばす手に無駄に力が込められてる気がする。
真っ白い布が破れそうでハラハラする。
というかそれ、私がいつも着てる着物!



「佐助、ごめん…?」

「何に対して怒ってるか分かる?」

「佐助をついで扱いしたこと、だろ?」

「まぁ、それもあるけど。俺が怒ってるのは……。あ、いや、これは、なんでもない」

「えぇ!? んなとこで切られたら気になるじゃんか! 教えろよ!」

「断る」



教えろ、教えないの問答が暫く続くかと思われたが、
お館様に名前を呼ばれてすぐに終わった。
お館様に負けないぐらい大きな声で返事をすると、裸足で庭に下りた。

お館様のとこまで駆けて行こうとすると、腕を掴まれた。
掴んだ本人、佐助を見ると無言の訴え。
何か意図があって引きとめたのだろうが、黙ってちゃ分からない。
だが、この様子じゃ聞いても答えてくれなさそうだ。



「佐助、」

「……」



力を最小限に抑え、抱きつくと佐助がこちらを見た。
身長差のせいで見下げる形になった佐助に、顔を近づけ



「おやすみ」

「っな!?」



あごにキスしてやった。
びっくりして腕を放した佐助から離れるため、少し走り
まだ昼だっつーの、と悔し紛れに吐き捨てられて、止まった。
顔が見えない程度に振り向くと、笑い混じりに言う。




「今日から長期の任務なんだよ。だから、さ」




少し遠くで佐助が行ってらっしゃい、とぶっきらぼうに言ったのが聞こえた。





今夜は寝かさない






私が戻るまで暫く、佐助が眠れなくて困ってるなんて知る由も無かった。
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