死を知らぬ者と探求者
クツクツと梟雄が喉を鳴らす。
低くかすれた声は色気を含み、かなり好みだが、些か面倒だ。
わざと立てられる足音に若干イラつきを覚えながら横に跳ぶと爆撃。
ついさっきまで足をついていた地面は深く抉れ、避けるのが少し遅れてたら片足はなかったと容易に予想できた。
更に走るが、行く道行く道を多数の爆発によって妨げられた。
人殺しの為だけの体。死にはしないが、逃げるだけには向いていない。
「ふむ、卿は落ち着きがないな」
「爆撃が無ければ落ち着けるっつの!」
「私の物にするため動けなくするのが得策だと」
「松永が嫁になるんなら考えてもいいけど、な!」
松永と距離を縮めたいが、近付こうにも爆発が立て続けに起き、なかなか近づけない。
高見の見物とは悪趣味だな。
笑い混じりに言うと、卿には及ばないと笑い返された。
「私は卿の心には興味なくてね。躯が手に入ればそれでいい」
「端から聞いたら破廉恥!」
「すまないが卿に欲情するほど悪食ではないのだよ」
失礼な!
言い返してやろうと身を翻すものの、爆撃が襲いかかる。
飛んでくる石を鎌で防ぎ、砂が入らぬよう目を閉じた。
それが間違いだった。素早く軽やかに、背中を奪われる。
刀を首元に押し付けられ、皮膚が裂ける。
喉笛まではいかないが、大きな脈を傷つけられ、勢いよく鮮血が吹き出した。
地面を紅へと染め上げる私の血はとめどなく溢れ、体の血がなくなるのではないかと笑い事ではない考えが頭をよぎる。
更に亀裂が入るが、松永へと顔を動かすと楽しそうに血の行方とこちらを見比べていた。
「卿はどうしたら死ぬのだろうな」
「気になる?」
「興味はある。焼いても潰しても切っても裂いても、失血死もないらしい。
いやはや、卿への探求心はつきないよ」
「私が欲しいならそれなりの覚悟をしてもらわないと」
首が切れることも気にせず松永に顔を近づける。
喉笛がごり、と嫌な音を立てる。刃が骨と骨の間に入り込んだ。
松永はそれにも眉を顰めることなく視線を交じり合わせた。
「私のものになれよ」
死を知らぬ者と探求者(卿のものになるのは御免被りたいから、観察日記をつけることにしたよ)
(ストーカーだよな)
(なにか言ったかね)
(帰れ)
(私のことは気にしなくてよい)
(誰かー!)