魔王様にツッコミを
ちょん、と小さくちょんまげが揺れる。
独特の威圧感のある低い声に返事をすると、呼んだ当人は満足げに頷いた。
紙製の武器。
用途が分からないから教えろと文が届いたのはつい先日。
私は織田信長に呼び出しを食らっていた。
「信さん、これはハリセンだよ」
「針扇?」
「うわぁ、凄い痛そうな凶器だな」
少し漢字を変えるだけでツッコミ道具から凶器になってるよ。
まぁ凶器といえば凶器なんだけど。
信さんにハリセンを貸してもらったが、重量も固さもなかなか。
見た感じは紙のようだが、殴られたら相当痛そうだ。
「正式には張り扇。扇子を畳む方向で叩くと凄くいい音がするんだよ。
ちなみに掛け声もあって…」
なんでやねん、と試しに信さんの頭を冗談交じりに軽く叩いてみた。
パンッといい音が響く。はずだった。
質量も固さもあるハリセンは信さんのちょんまげを無くすほどの威力。
髪が解け、叩いた反動で俯いたままの信さんからは音が聞こえない。
「の、信さんだいじょぶ?」
「……戯けが」
「銃向けるのなし! 危ないって!」
ハリセンとは違ういい音が響き渡る。
ぶちきれた信さんは髪を振り乱し、魔王の名に恥じない笑顔を浮かべていた。
髪が解けた姿はそれなりに色気があり、襲いたいが、今は銃をぶっ放されてる状況。
必死に避け続ける私は表彰もんだね。
壁やら障子やら畳やらが焦げ、硝煙が立ち込める。
そろそろ限界かな。弾が無くなった頃を見計らいハリセンで殴った。
力加減を上手く出来なかったせいで部屋の隅まで転がったが……、細かいことは気にしない!
思ったよりハリセン強いな。今度から武器ハリセンにしようかな。
身動きの取れない信さんから銃を奪い、手の届かないところへ投げる。
圧し掛かると信さんは侮蔑した視線を投げかけてきた。
「魔王すら喰らおうとするか」
「食べさせてくれんの?」
「貴様にやるにはもったいないわ。弾丸と矢が相応しい」
「そうみたいだね」
突如受ける衝撃に私はにやりと笑みを浮かべた。
背後には濃姫さんと蘭丸。
牽制のつもりか一発ずつ放たれた攻撃は、一つは肺を貫き、一つは足と畳を縫いとめる。
肺を傷つけたせいでコポコポと血と空気が喉に這い上がってきた。
弾丸を手で取り出すと、その手で矢を抜き取った。
見ていて気持ちのいい状況ではないから、蘭丸は隠すことなくうぇ、と声を漏らした。
「そろそろ帰った方がいいかな?」
汚れていない手で信さんを引っ張り起こし、こちらを睨む二人を見やる。
帰れ帰れと素直に拒絶する蘭丸にハリセンを投げると、少しいい音がした。
「濃姫さん、騒がしくしてごめん」
「そっちを謝るのね…」
「蘭丸、色気出せよ」
「黒兎なんかどんなに露出しても色気のかけらも無ぇじゃん」
「消える弾丸!」
「馬鹿、やめろよ! 汚いだろ!」
血まみれの弾丸投げてやったぜ、ざまぁみろ。
信さんはハリセンの使い方が分かったら用無しらしく、目で帰れと訴えかけてきた。
「信さん、じゃあまた来るね」
「今度会うときは戦場ぞ」
「さぁ? どうだろね」
魔王様にツッコミを次に会うときは本当に戦場で
なんでやねんと掛け声と共に力いっぱいハリセンで叩かれた。