参拾玖

さて、話をシリアス方面に戻そう。
三回まわってぴょん、のせいで送られる生あたたかい視線と痛々しい視線に私のライフはゼロさ。

私の目的を達成させる為にも、ここで豊臣秀吉と織田信長を説得しないと。
声を潜め、比較的静かな口調で史実の未来を語った。
本能寺の変から関が原の戦い、そして江戸時代の始まりまで。
誰が勝つか、誰が死ぬか、誰が天下を取るか。
勝手に舞台に立つ語り部として、隠すことなく語った。


「さて、"来ない未来"の話は終わり。もっと事を簡単にしちゃおう。皆で一斉に集まって、戦って、勝った奴が天下人」


無茶を言っているのは百も承知。
無茶苦茶な案なのも重々承知。
だからこそ大ボスである織田信長と豊臣秀吉に持ちかけたんだ。

舞台は既に用意している。
なんたってこの世界は史実通りではない。
それに私という異邦人まで居るのだ。
未来どころか運命だって変えることが出来る可能性を持っている。
物語を変えたい。私が帰る世界は別にあるとしても、変える世界はここだ。

クツクツと秀吉が楽しそうに笑う。
厳格な雰囲気と違って、笑うと幾分か表情が幼い。


「単純に強きで天下を狙うか。童の戯言と笑うのは簡単だが、興味深いな」

「世は余興の場。魑魅魍魎蔓延る百鬼夜行、起こしてみせい」

「にひひ、お二人に背中を押されるとは心強いね。
じゃあ協力してもらっちゃおっかな」


北は上杉、南は島津。世界から見れば狭く小さな日ノ本には多くの強者が散らばっている。
それらを一カ所に集わせ、戦わせるのは至難の業だ。
自分の領地を留守にするのはそれなりに準備をしなければならないし、背中を取られると前進も後進も出来ない。
いきなり関が原で戦おう! と言ったところで当然罠だと判断されるのが関の山。

だが、今の私にはコネがある。
全国を自分の足で歩いてきた。強き武将と一戦交え、時には殺され、時には殺し。
そろそろ仕上げの時だ。


「織田信長、豊臣秀吉、天下に近い御仁に物申す。群雄割拠の時代を終わらせ、天下に号を発すのは恐らく二人のどちらかだ。
日ノ本の中心に人を集わせ、関が原の戦いを起こそう。幕を上げるのは一月後。早い、だなんて言わせないから」

「……質問を一つ、よいか」

「どうぞ?」

「お前はどうしてこうまで関わろうとする。未来から来たのならば己の行動で今の自分が居なくなる、など考えた事はないのか。それどころかお前以外の人間、家族や友の存在の有無にも関わるやもしれぬのだぞ」

「あー……そうだね」


半兵衛と同じ質問。親友は思考も似るのだろうか。
別の世界の話。と言えば、それで終わる。
それに全く私と関わらない偶像世界の話ならば、悲惨な結末で終わるのもまた一興。
私が居なくてもまわり続ける世界だ。
誰かが上手くやって、誰かが天下を取り、誰かが未来を築くだろう。

視線を斜め下に下ろし、頬を掻く。
納得行くような答えを出す自信など微塵もない。
秀吉の顔を見上げ、苦笑を零した。


「それでも、今の私の世界はここだから。目を瞑ることも、耳を塞ぐことも出来ない。目に見えるものは一つ残らず拾いたいんだ」

「はは、なんたる傲慢。強欲よ。未来の化け物はなんとも人間らしいな」

「本当は何も求めなくなかったよ。大事なものが出来れば弱点になるし、未来に帰らずここに留まりたいって思いが強くなる。
だけど大事なものがあるおかげで、戦える。秀吉、私は強くなるよ。大事なものがあるから」

「……それは我に対する嫌味か?」

「私は何も知らないから、酷いお節介を一つ捧げよう。
秀吉、今度お前が大事なものを手にかけようとするのなら、私が殴ってやる。私の拳は重いからな。天下も眩む程、クラクラしちゃうよ」

「知らぬとほざくわりに知っている事が多いようだな。とんだほら吹きよ」



私を見下ろした秀吉は、苦々しい笑みを零した。
さて、豊臣とは暫しのお別れ。
ひそひそと内緒話を始めよう。

お次のターゲットは織田軍。
心行くまで利用させてもらおうじゃないか。


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