参拾陸

大鎌が弾き飛ばされる。
鎌を引こうとした腕が千切れ落ちる。
首は、くっついたままだ。

ぱちくりと何度か瞬きする。
痛みはないし、意識もはっきりとしている。

手から離れた鎌は姿を消した。
腕から離れた手首は地面に沈んだ。
毒の霧が晴れ、視界がクリアになる。視線の直線上に立つシルエットに、思わずニヤリと厭らしい笑みを零した。



「最強の傭兵集団の肩書きは伊達じゃないってか。流石次期頭領」

「茶化すな。我らは諦めを認めない」


厳しい目。我らがおっぱいげっふんげふんサヤカちゃんは怒髪天のようだ。
しかしそれ以外に術を見つけられなかったし、雑賀のおっさん達が救われるならば別にいいと考えていた。
怒られるのは心外だなぁ。

バズーカー砲を持ったサヤカちゃんに千切れた腕が再生していく様子を見せないように隠しながら近づく。
マスクを外した半兵衛は、やれやれと首を横に振りながらも余裕な態度を崩さない。
仮面の奥の涼やかな目に苛立った。


「毒を撒き散らす針は全て壊した。竹中半兵衛、契約破棄の鐘の音しかと聞き届けたぞ」

「なんだ、そんな事か。瑣末な事を気にしていられるほど、僕には時がない」

「なんだと?」


次の瞬間地響きが。今までどこに潜んでいたというのだろうか。
地中から城が生えてきた。
もう一度言おう、地面から城が生えてきた。

はっははー、こんな奴らに化け物扱いされるとかマジで納得いかねぇえええええええええええええ!!!
だがしかし、そんなことで挫ける私じゃない。
なんたってついさっきまで自害しようとしていた程追い込まれていたからね!
城に勢いよく(先ほど再生し終えた)人差し指をつきつけ、叫んだ。


「ハウス!!」

「……帰っていったな」

「うん、ちょっと吃驚した」

「フッ、まさか君に調教の素質があるとはね」


柔らかな前髪をかき上げる半兵衛は大変腹立たしいが、十日以上寝食を共にしていたおかげでスルースキルは第一級を取得している。
素直に地面へと帰っていった城はいい子なのに、何故こうも半兵衛は奇をてらうのか。
男を嫁にしたり、ごまかす為にボケ倒す私が言える立場ではないとしても、その点に対しては黒田のおっさん以外まともにつっこんでくれないし!
ボケはつっこまれてこそ生きると何度言ったら分かるんだ。

毒塵針は壊した。
城は地面に戻った。
しかし豊臣軍の脅威は半兵衛一人ではない。
一番の脅威である豊臣秀吉がまだ動き出していない。

半兵衛の脳天を撃ちぬこうとするサヤカちゃんの銃口を手で押さえつけ、無理やり下ろさせる。
まだ雑賀のおっさん達が人質に取られたままだ。
本陣へと視線をやり、サヤカちゃんに目配せした。

私は目の前にある命を見捨てる事は出来ない。
例え空想によって築き上げられた世界だとしても、今起こっている事はこいつらにとっても、そして私にとっても現実だ。


「さて、君は自害以外にどうやって他を助けるつもりだい? まだ僕は切り札どころか、手札もほとんど見せていない状態だ。それとも彼らの事は諦めるのかな」

「まさか。私は強欲だから、全部ほしい。殺したくない」

「黒兎君が浸かってきたぬるま湯はそろそろ水になっていると思ったけど、違ったみたいだね。誰一人殺さないなんて無理に決まってるじゃないか。臆病者の癖に、何を」

「ああ、弱いから何度も決意を揺るがしてしまう。だけど、それを言い訳に逃げたくない! 豊臣の人たちも、雑賀衆も、浅井の人たちも、織田の人たちも、皆長生きする世界があったっていいじゃないか!!」


水路の向こう側にある本陣にも届くように声を張り上げる。
恥ずかしい、我ながら青臭いことを抜かしてると思う。
子供じみた綺麗ごとだと自覚している。

だけど、言い終えると不思議とすっきりした。
気分は高揚していたが、ひとつ重荷を下ろせたかのような安心した気持ちになれた。

まだ言えないけど。
私はこの世界が×××だと。
まだ認められないけど。

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