参拾伍
「そうだね。まずは僕をこの鎖で縛り付けてから、羞恥心を煽るように詰ってもらおうかな」
「そんな事の為に毒やら大砲やら準備したんなら、しまいにゃどつきまわすぞ」
「それはそれで大歓迎だけど、まぁ、軽い冗談さ。本題に入ってもいいかい?」
さっさと入れよ。
止まる気配のない毒霧が焦りを促進させる。
サヤカちゃんは逃げられただろうか。遠くで聞こえる銃声は空耳であってほしい。
半兵衛から退き、引っ張り起こす。マスク越しの顔を睨み付け、言葉を促した。
視界にちらつかせる鎖に対しての突っ込みは絶対に入れないんだからな!
「まずは質問。君が見た過去の結末を教えろ。天下を取る人間を本当は知っているのだろう?」
迷う時間も、悩む権利も無い、か。
安芸ではぐらかした答えを素直に答える。
「……半兵衛にとっての結末が天下ならば、秀吉が天下人になって終わりだ。それとも秀吉の亡き後も知りたい?」
「……三成君は、どうなるんだい? 吉継君や、」
「死んじゃうよ。きっと半兵衛が望まぬ死に方で。
半兵衛、前に元就んとこに間者をやっていたって言ってたなら先見の巫女、鶴御前の予言も聞いたんだろ。このままじゃその通りになる」
表情を曇らせる私に、饒舌だった半兵衛が黙った。
曖昧な予言でもあったが、未来を知る私や、軍師である半兵衛ならば何の先見だったか予想付く。
当の本人、鶴っちは何の事だか分かっていないのも痛々しい。
伊予の鶴御前、私が知っている鶴姫ならばあの子も悲惨な末路を辿ってしまう。
死なない体を持っているのに、岩をも砕く力を持っているのに、誰も助けられやしない。誰を愛すことも出来ない。
誰もが笑える世を願うフェミニストにも、誰にでも手を差し伸べるエゴイストにもなりきれない道化師。それを見て笑う人間も居なかった。
「質問は終わりのようだな。じゃあ私に何をやらせるつもりだ?」
「自害を、してくれないか?」
さらりと言ってのけやがった。
無意識に眉間に寄る皺をなんとか伸ばす。
だがまぁ、妥当な判断だ。化け物の存在は厄介で、脅威。
生かしておくには面倒だろう。
今まで殺す手段が見つからなかったから放置されていたようなもの。
味方につけようとするのも、同じく殺せないからだ。
半兵衛の言葉に、不安ではなく期待が生まれた。
今ここで誰か――雑賀のおっさん達――のために、誰か――私――を殺せば、私は生き返られるんじゃないだろうか。
やってみる価値はある。
黙って鎌を取り出し、自分の首の横に刃を宛がう。
首を切り落とせば、きっと死ねる。
深呼吸をひとつ、臆病風に吹かれそうになる足を奮い立たせた。
「ちゃんと、雑賀も浅井も織田も助けろよ」
「勿論」
半兵衛の快諾にも暗雲は晴れなかったが、そのまま右に鎌を引いた。