弐拾陸

織田との戦に備え、姉川は武器を持った兵士によって囲われている。
山の頂からは木々が邪魔して見えなかったが、中心にある陣が本陣で間違いなさそうだ。
本陣の周りにぐるりと水路があり、本陣と陸を繋ぐ一本の橋は上げられたまま。
舟を使おうにも、陸から水面までの距離は長いから舟を下ろしている間に殺されてしまうだろう。
本陣を囲む槍状の柵も邪魔だ。

作戦の詳しい内容は聞いてないが、私の仕事は好きに暴れまわり、浅井の本隊を誘き出すこと。
雑賀集の人達が潜む山を後ろに鎌を取り出す。
初めこそ惑えど、今じゃ瞬きと同様に自然な動作の一つになっている。
背丈よりある大鎌は2、3人ぐらいまとめて真っ二つに出来る代物。
化け物の力と併用すれば大量殺戮には持って来いだ。
……もう人を殺すのは御免だが。

人殺しの力を携え、生きる人間を脅かし、死人から化け物になった私は決めることが出来るのだろうか。
人の為に人を殺し、己が生き返ることを。
帰りたい気持ちは未だ薄れていない。
しかし別の場所で膨れ上がる気持ちがあった。


この気持ちだけは言葉にしちゃいけない。
おしまいになる。


鎌を握り直し、本陣の周りの陣から攻める。
その名も陣大将誘拐大作戦。
本陣を包囲する陣は4つ。
4人誘拐するだけの簡単なお仕事です。
市親衛隊なるものを作り、揃いのピンクの法被を羽織った集団に目を奪われながらも五分で二人捕まえた。
元乳首からこっそり奪った漁用の網に三人目のおっさんをつっこんで、秀吉へのプレゼントを準備する。
花束ならぬオッサン束を抱え、四つ目の陣に辿りついた私を待っていたのは爆発音だった。


といっても別に大砲を打たれたり、爆弾兵に襲われたわけではない。
赤、黄、青、紫、緑。
それぞれ五色の鎧を身に纏い、赤を中心としたポーズを決めた五人組の後ろで登場シーンをイメージしたであろう爆発が起きただけだ。
思わずオッサン束を落としてしまい、受け身すら取れなかったオッサンが蛙を潰したときのような声を出した。



「五本槍生きてたーっ!」

「その声は北条を裏切り」
「俺たちの砲弾を直撃しても無傷で」
「男色だと専ら噂の」
「不死の神子か!」
「え、居たっけ。そんな奴」
「おい一人忘れてるぞ。男色じゃないし」


自由人だな五本槍。
拾い直した網の中でオッサンがもがくのが手に伝わるが、もがけばもがく程網が食い込む筈だ。
化け物ならまだしも普通の人間じゃ千切れない強靭な網。
元親の網便利だなー。
ただ、最後の陣大将である五本槍全員が入るかどうか。
目下の問題に首を捻るも、目的は浅井本人を誘き出すことだと思い出す。
手段の為に目的を忘れるところだった。



「よく見れば巫女装束じゃないぞ」
「ほんとだ」
「お市様みたいに足を出している」
「女装が趣味なんだろ」
「男の娘か」

「男の娘言った奴前出ろ」

「それはそうと」
「何用だ」
「長政様は」
「丁度」
「不在だ」

「スルーか。てか長政さんが不在?」

「厠だ」
「緊張状態が」
「続いたから」
「腹を」
「痛めたのだ」



メンタル弱い!
っと、強烈な登場シーンとボケっぷりに本来の目的を忘れるところだった。
網の口を縛り、鎌を構える。
火、氷、雷、風、闇を操る五人を攫うのは面倒だ。
それならば完膚なきまでに打ちのめすだけ。
戦国最強砲さえ出させれば、あとは勝手に自爆してくれる。



「さぁ、まとめて嫁にしてやる」

「永久就職か」
「把握した」
「不束者だが」
「よろしく」
「頼む」

「もう駄目だこの五本槍!」
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