弐拾伍



そろそろ日没か。明朝には浅井の背中を狙うから、そろそろ出かけないと。
木々の合間から沈む夕日を眺めた。
食器の片付けは兵士さんにお願いしたから大丈夫。
甲冑の手入れ、在庫チェック、洗濯……。
指を折りながら一つ一つ思い出す。よし、全部出来ている。

服も半兵衛プロデュースのコスプレ衣装だ。
ミニスカニーソ、そしてブーツ。
薄手の布を重ねて作ったスカートは歩く度にフリフリと揺れるのが分かる。
こんな姿知り合いに見られたくないなぁ。
半兵衛の趣味なんなの。巫女服も十分恥ずかしかったけど、コスプレ感満載さが更に恥ずかしい。

木の根っこを枕に寝ていた雑賀のおっさんに近づくと、びくりと体を起こし、銃口を向けられた。
私は自分が思っている以上に嫌な気配を纏っている。
一番長く過ごした武田でも、背後から近づいたりすると、武器や殺意を向けられる事が多々あった。
どうせ死ぬことのない体だから気にならないけど。

鋭い眼光を緩め、雑賀のおっさんはため息交じりに銃を下ろした。
立ちあがり、木の幹に体を預ける。銃は未だ握ったままだ。



「がきんちょ、知ってっか。人は死ぬんだぞ」

「いきなり何」

「首を切られたり、心の蔵を打たれたりは当然。小さな傷が致命傷に至ることだってある。
命ってぇのは図太く呆気ないもんだ」



どうして突然そんな事を。
仰ぎ見るも、真意を測る事は出来ない。



「だがな、命を引き継ぐ奴もいる。わしが死んでも問題ないんだ」

「……それ、雑賀衆の人が聞いたら怒るよ」

「はは、違いねぇ。ま、がきんちょは命をもっと大事にしろよ」



髪の毛をくしゃりと掴むように撫でられ、おっさんは雑賀衆の集う陣の方向へ足を向けた。
途中足を止め、サヤカ。と名前を呼ぶ。
驚いて振り向けば木の幹に隠れていたサヤカちゃんが姿を現した。



「わしの命を引き継いでくれよ?」

「戦を前にして惰眠を貪る頭領なぞお前一人で十分だ」

「そうだな。サヤカなら立派な"雑賀孫市"になれる」



雑賀衆。
数千丁の鉄砲で武装していた傭兵集団だ。
貿易などにも通じていたことから武装商人集団とも言われている。
確か秀吉の軍に壊滅させられたって文献で読んだ気がするけど、どうだったかな。

雑賀孫市は襲名制。
雑賀のおっさんの本名もきっと孫市ではない。

言うだけ言って姿を消した雑賀のおっさんからサヤカちゃんに視線を移した。
寂しそうな目をしたサヤカちゃんは、私の視線に気づき、いつもの凛とした表情を繕う。
明日浅井に攻め込むのは私と雑賀衆。混乱したところを本隊が制圧するのが今回の作戦だ。



「我らに敗北は許されない。勝利こそ誇りへと繋がる」



決意を口にするサヤカちゃんは胸の前で拳を強く握り締めた。
雑賀のおっさんを追って消えたサヤカちゃんの背中を見送る。

私にとっての勝利は嫁のデレだな、うん。
ツンケンしている嫁がデレたときたまんねぇ。
お館様の包み込むようなデレも、謙信さんの背中を押すようなデレも好きだ。
敗北は優しくされた瞬間だな……うん。
小太郎や慶次の優しさ嫌い。息がつまりそうな位嬉しくなる。
元就と半兵衛のド直球デレも別の意味で嫌だけどな。何アレ、何なのアレ。

……脱線しちゃった。

既に浅井へと歩を進めている雑賀衆を追い越すべく、地図をもう一度確認する。
森を真っ直ぐ突っ切っていけば浅井の背後を突く事が出来る。
ふっふっふっ、私のセクハラ魂が火を吹くぜ!


ツンデレヤンデレ夫婦を力いっぱい弄り倒すべく、ついでに平和をもたらすべく、日没後の薄暗い森に踏み込んだ。


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