弐拾参

※マジでフェアリーな大谷さん視点




首につけた痣は瞬く間に消えた。
殺され慣れた娘は、首を絞められても怯えるどころか抵抗すらしない。
われに巣食う闇を見透かすように、穢れを知らぬ生娘のように、真っ直ぐと目を見つめられ、手を離してしまった。

先ほどの出来事など気にもしていないのか、平然と包帯を解く姿は些か不気味だ。
醜く爛れた肌が露になると、見て見ぬふりすることなく。かといって労わる事もなく。



「業病って言うんだっけ。前世の行いが悪いとかなんとか」



躊躇うことなく触れようと伸びる手を払いのける。
素顔を見せれば少しは怯むかと思った。
特に驚くことすらせず、自然な態度を護る。
それが逆に不自然に映るのは、きっと気のせいではない。
三成ですら眉を顰めるのだ。初見である神子は何故表情を変えない。
ひきつる皮膚を寄せ、笑みを作るが、いつものように笑えない。
何故怯えないのか。何故拒まないのか。
わればかり神子を拒絶している。
いつもならばわれが拒絶される立場だというのに。

本陣と離れた場所にある陣であり、病持ちに近づく者は少ない為、静かな空間に女子の声はよく通る。
にたりと目を細めた神子は、再び手を伸ばしてきた。
払いのけようとする手を掴まれる。



「まだ解き終わってないよ。お前が望んだんだろ? 隅々まで見てやるからさ」



捕食される虫の気分だ。
蜘蛛のように狡猾で、蟷螂のように兇暴に、蜂のように獰猛な。
身を竦めてしまいそうな恐ろしさと魔性を孕んだ姿に惹かれる者も少なくないのだろう。
婀娜さはないが、殺したくなるほどの劣情を抱かせる。

滑らかな細い指が、包帯を解く。
着物を脱がし、上半身の包帯を解き終わったとき、陣布が捲られた。
右手で陣の布を頭まで捲った状態で、目を見開くのは三成。
次の瞬間、刀を抜き、神子の首を狙う。
切断される寸前に手で受け止められるが、三成の殺気が緩む事は無い。



「三成、やめやれ。これはわれが望んだ事よ」

「そうさ。よっしーが私に「神子よ、余計な事を言おうとしてまいな。賢人に神子の戯言を事実にさせてやってもよいのだぞ」あ、ははー、何を言っているんだか。まるで私が下ネタ製造機みたいじゃん」


乾いた笑いで目を逸らす神子に、やれやれと溜息を零す。
やはり碌でも無い発言をしようとしていたか。


「刑部、屋敷で休んでいるべきだったのではないか。顔色が悪い」

「いやはやぬしから心配されるとはなぁ。めでたきな」

「私としては三成に対して人の事言えない顔色してることにつっこみたいがな。半兵衛も含め、お前ら不健康体過ぎ」

「貴様に言われたくないな。まるで死体のように冷たい」


手を掴まれた神子の表情が曇る。
嘲笑うように顔を歪めた。


「死体が冷たくない道理なんてないだろ?」

「……?」

「三成には分からないか。前髪切って視野広げようよ」

「侮辱された事だけは分かった。その冷たい四肢をバラバラにしてやるぞおおおお!!」

「その前によっしーの包帯替えるよ。風邪引く」

「分かった」


分かったのか。
大人しく正座する三成につっこみをいれたいが、三成ならば仕方ない。
包帯を替え終われば、真っ先に斬りかかっていくのだろう。薬箱から軟膏を取りだし、何の迷いもなく体に塗る神子は何も思っておらぬのか。
冷たい手が背中を滑る。



「人に見られながらってのは初めてだな。興奮する。ドキドキ」

「口で言うな変態。戯言吐かずに早よ済まして、切られやれ」

「いやん、いけずー。夜はまだまだ長いんだぜ」

「まだ昼であろ」


木々の隙間から差し込む日を指させば、神子は小さく嗤った。
背中を塗り終え、神子は前へと移動した。再び軟膏を掬い、首から胸へと触れる手を掴む。
気に食わぬ。神子のなにもかもが。
死体の首に歯を立てれば、驚いたように目を見開き、細めた。


「まだ、昼じゃなかったっけ?」

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