拾漆
「なんで全裸!? 男所帯でそんな格好してたら襲ってくださいって言ってるようなもんだよ!?
ただでさえボンキュッボンっつーメリハリのある体してセクシーなのに、我慢できたらそいつ男じゃないよ!
ほら、服を着なって!!」
「寝るときは裸と決めている。それに護身用の銃は携帯してある」
「そう言う問題じゃな」
両腕を伸ばし上半身を起こそうとするが、サヤカちゃんの腕が首に絡まり、上手く起き上がれない。
私が男だったら完全に誘っているって勘違いするよ。
でけぇなと視線を一点に集中してしまうのは貧乳の性か。
動物のように甘えてくるサヤカちゃんを押しのけた。
するとサヤカちゃんが真摯な視線を向けているのに気付いた。
真っ直ぐに私を見つめ、真剣な表情を浮かべる。
「あえて言おう、私はお前を誘っている」
「……悪いけど、私は女だよ」
「知っているが?」
え、サヤカちゃんってそっちの気なの?
確かに衆道は嗜みの一つとして存在する時代ではあるけどさ。
慣れた手つきで脱がそうとするサヤカちゃんの手をどかしながら、のんびりとした思考に浸る。
しかし、どうしたもんかな。これ以上ペースに乗せられては十八禁になってしまう。
半兵衛が言っていた意味を今更ながら理解したよ。
私、狙われてたんだね。性的な意味で。
脱がされたワンピース風のジャケットをサヤカちゃんに羽織らせる。
全裸にジャケットはなんとなく厭らしく見えるが、気にしない事にしよう。
更に上から布団をかぶせ、きょとんとするサヤカちゃんに笑いかけた。
「風邪を引いちゃいけないからね」
「……お前は他に気に入っている人間が居るのか」
「そりゃまぁたくさん。浮気症だからねぇ私は」
だからサヤカちゃんは一途な人を好いてね。
そう微笑み、部屋を出ると、そのまま走り出した。
依然廊下で秀吉と三成の稽古を見つめていた半兵衛に突撃する。
サラシにミニスカ、ニーソというカオスな服装をしている私を見て、半兵衛はすぐに理解したようだった。
「やぁ、ちゃんと襲われてきたんだね」
「もっと分かりやすく止めろよ! 実は楽しんでるなお前!」
「大当たりだよ、黒兎君。ご褒美をあげようか」
いらない、と即答すると、予想通りの反応だねとクスクス笑われた。
ふわりと羽織りを被らされ、私がサヤカちゃんに言った言葉と同じものをかけられた。
化け物なんだから風邪を引くわけがないじゃないか。
慣れぬ優しさに声に出すのを忘れてしまったが、ふてくされたように顔を背けると、三成がギリギリと歯ぎしりしているのが見えた。
許さない。何度も呟いているのを鋭い聴覚が拾い上げる。
プロレス技をたくさんかけたのに懲りない奴だな。
抜き身の刀身が突くように心臓目掛けて伸びてきた。
するりと避け、刀身を握るも、手の内を滑り抜けるように貫いてきた。
くっそ、思いっきり手を切られてしまった。だけど、面白い。
に、と笑みを投げかけ、鎌を取りだす。
まだ太刀筋は甘いし、若いが、素早さとタフさは化け物を楽しませてくれるだけはありそうだ。
よっしーと黒田のおっさんが帰ってくるまで、三成をおちょくってみよう。
幸村と政宗のように好敵手が出来たみたいで、少し嬉しくなった。