拾肆

珍しい佐助のデレに内心テンション上がりまくり。
じっくりと感動の再会を味わいたいが、とにかく今は時間がない。
懐から書状を取りだす。……取りだそうとした。
あれ? あれぇ!? 何故か懐空っぽなんだけど!
西洋風の服を開き、探すも書状は見つからず。さらしを巻いた平坦な胸が虚しさを掻き立てた。



「どうしたの? 胸ならとっくに」

「探さなきゃいけないほど胸が無いわけじゃないから!」



さっきのデレはどこに行ってしまったんだ。
カムバーック、デレ!
いや、カムバック書状。
こんな重要な件を口頭で伝えてよいものなのだろうか。



「お館様に渡したいものがあったんだけど」

「黒兎様、お探しの書状はこちらに」

「あ、本当だーって誰!?」

「軒猿でございます」



武田の兵に紛れていた軒猿さんに、佐助や才蔵が戦闘態勢に入った。
敵ではないことを必死に伝え、武器を下ろさせる。
軒猿さんから書状を受け取ると、いきさつを話してもらった。



「大谷様と黒田様との戦いの最中落とされたようなので、追ってきた所存でございます」

「……もしかしなくてもずっと追ってきたよね。長曾我部のところにも」

「えぇ。黒兎様が……」

「待った待った! 何も言わないで!!」

「承知いたしました」



絶対に、殺したことも泣いたことも知っているじゃん。
素直に話さないと約束してくれたことに、ほっと一息つく。
改めてお館様に書状を渡すと、丁寧に封を切って中身を黙読した。
内容を確認したお館様は目を丸くし、書状と私を交互に見やる。

べ、別にお館様の為じゃないんだからね。
とかツンデレ風の台詞で誤魔化そうと思ったが、前回の別れで使ってしまったことを思い出した。
二回目はどうしてもインパクトに欠けてしまうからな。やめよう。

それよりもちゃんとした本題に入ろう。
お館様が徳川を裏切った理由。歴史通りなら知っている。
理解は出来ても、納得は出来ない。


「お館様、今回はこういう手に出たけどさ、次はもう無いと思う。
なんでお館様は家康を裏切ってまで上洛したがるんだ?」

「上洛こそ天下への一歩。ワシは安寧を手に入れたい」

「そうそれ。天下ってそんな必要なものなのか?
天下を狙わなくても仲良く平和を手に入れることって出来ないの?」

「黒兎が知っておる歴史では天下を取ることによって平和を得たのではないのか?
それとも誰も殺すことなく平和を手に入れたのか?」

「……私が綺麗事を並べているのは分かっている。
でも不可能でも無いと思っているよ、誰も死ぬことなく平穏を手に入れることだって」


この世界に来てから変わってしまった心。
この世界の人達への想いがなみなみと注がれた心。
綺麗事じゃ救えないことだって分かっている。
よっしーの言った通り不幸の種が芽吹こうと、今か今かと戦乱の春を待ち続けているのだ。

だからこそ、私は思う。
愛している皆が笑って過ごせる世を手に入れようと。

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