人殺しの力として渡されたのは怪力だった。
不審者として何度も捕まりそうになるが、私の動きを止められる者は誰一人いない。
時代劇を彷彿とさせる情景にも驚いたが、突然刀を抜くお侍さんには心底驚いた。
タイムスリップ、なんだろうか。にわかには信じられないが、合戦を目の当たりにした上、実際にばっさり斬られている。
夢だとしてもあの痛みは弐度と味わいたくない。

鞘ごと刀を折り、相手の持っている武器を片っ端からゴミにしていく。
いつしか私の周りには誰も歩くことなく、畏怖の念を込めた視線だけが行き交う。
捕まえようとする力自慢が途中現れるも、情けないことにパンチ一つでダウン。

城下町を歩く化け物に人々は世界の終わりだと言わんばかりの反応だ。

しかし別の反応も現れた。
私を敬う人が登場したのだ。拝んだり、頭を下げたり。
金を投げてきたり、大福供えたり。



「いや、あの、そんな大層なもんじゃないんで」



私が頭下げたくなってきたわ。神様でもなんでもないんだぞ。
ただの女子高生、そしてただの怪我人だ。
なのに誰一人助けてくれない。

お金も大福もいらないから、手当てしてください。心配してください。

異端なのは分かっていても人の扱いをしてもらいたい。
失意、諦め、悲哀、鬱積した想い。
苛立たしい。



「ふざけんなぁああああああ!!」

「ひぃ! 血塗れ天狗様がお怒りじゃ」

「誰が血塗れ天狗だ!」



天女とか、戦乙女とか、姫とか色々あるだろ!
はいはい、どうせ平平凡凡な容姿してるよ畜生。
でも血塗れ天狗じゃ強さや神秘さを秘めてない! 響きが格好良くない!

それもこれも私を殺した二人のせいだ。
顔見てないけど。色しか覚えてないけど。
赤と迷彩の二つが鮮明に残った。切り傷って熱いんだ、と痛みにのたうちまわりつつ考えた。

もう傷は痛まないが、もしかしたら一旦死んだお陰で傷が清算されたのかもしれない。

ふと町民がひそひそと話しているのが聞こえた。



「おい、天狗様が向かっている場所大丈夫なのか?」

「天狗様も御屋形様相手にゃ勝てぬだろう」



御屋形様って城主のことだよな。
ってことはお偉いさんがこの先にいるってことか。
しかも、天狗を倒せるほどの強さを持った人が。

見てみたい。
純粋な好奇心がじわじわと広がり、支配する。

会いに行ってみよう。強い強い御屋形様に。


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