外見とは裏腹に綺麗な字を羅列させた書状を書いてみせた家康に感心しながら、内容を確認し、改めて封をする。
城主ともなると字が綺麗じゃないといけないのだろうか。我ながら馬鹿馬鹿しい考えを浮かべるも、すぐ一蹴した。

書状を懐に忍ばせ、半兵衛の顔を伺い見る。
病は一時的に消えているものの、顔は依然青白いまま。
首の傷による出血が多かったせいだろう。
このままでは三成達が心配するからと自ら首輪をつける姿に、やはりそんな趣味があるのではないかと疑ってしまう。

どこまでが冗談で、どこからが本気なのか。
一切汲み取れない真意に、睨むように見つめていたら、君にも似合うと思うよと見当違いの答えが返ってきた。
首輪が似合う似合わないで見てたわけじゃないよ。
即答するが、半兵衛はクスクスと笑うだけ。何を考えているのかさっぱり分からない。

赤茶の皮製の首輪は、青白い肌によく映える。
ご主人様と呼べって言ったら呼んでくれるんだろうか。
……洒落にならないからやめておこう。
変態変態と言われるけど、冗談の域で、実際アブノーマルな趣味は持っていない。
才蔵、佐助、本当の変態が此処に居ますよ。全力でつっこみにきてくれ。

さて、第一の目的、豊臣勢を嫁にすることは達成できた。
見たところ、豊臣には竹中半兵衛、大谷吉継、黒田官兵衛の三人の軍師がいる。
織田に続く強大な軍事力を持った豊臣を利用することは困難だろう。
だが、豊臣を使わなければ戦国乱世を終わらせることは出来ない。
全国嫁統一計画にも支障をきたす。

とりあえず。後ろから抱きかかえるように抱きしめてくるサヤカちゃんに問う。



「サヤカちゃん達雑賀衆って傭兵集団だよね。いつまで豊臣にいるつもり?」

「契約の赤い鐘を鳴らすまで……浅井との戦が終わるまでだ。次に行く場所は決めていない」

「本来ならば永久契約をしたいんだけれど、独占はさせてくれないようだからね」

「永久契約……! それって結婚じゃん!」

「私と永久契約するか? 三食つけてやろう」

「喜んで! と言いたいところだけど、私も根なし草だからね。
サヤカちゃんには悪いけど、フラフラさせてもらうよ」



私の答えに、残念そうに体を離した。
凶器(胸)を押しつけられていたが、ギリギリのところで誘惑に打ち勝った。
三食つきの契約って素晴らしいプロポーズだね!
今度はちょっと捻ったプロポーズしようかな。

サヤカちゃんから離れ、秀吉の元へと近づく。
会って暫く経ったけれど、この大きさにはまだ慣れない。
忠勝と同じぐらいのサイズなんだよね、この人。
指だけで私の手ぐらいありそう。


「武田は徳川を攻める準備をして陣を組んでいるだろう。伝令だけじゃ不安だから、私が直接行ってくるね」

「行くな、と言っても行くつもりなのだろう。だが我らの契約を裏切るようであれば、武田に攻め入るぞ」

「分かった。ちゃんと今日中に行って、明日の昼までには帰ってくるよ」



指きりげんまん。といっても予想通り手ぐらいある指に指を絡ませることは出来ず、手と指を絡め合わせた。
まるで走れメロスみたい。なんて思いながら、用意してもらった馬に跨ることなく、己の足で走る。
私の足ならば、一日で武田の陣まで行ける。
地図は受け取ったし、迷うことは無いだろう。

だが、途中地図に書いてある場所が塞がっていて通れない場所がいくつかあった。
石が転がっていたり、封鎖されていたり。
基本は力技でなんとかなったが、おかげで時間のロスが大きい。
暫く走ると、道を阻むように数珠がぐるぐると円を描いていた。見覚えのある数珠だ。
そのまま間を潜り抜けようとするが、見えない壁が阻む。



「あっれー、どういうこと?」

「こういうことよ」



聞き覚えのある声に顔を上げると、大量の大きな石が崖の上から降ってきた。
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