激昂した三成によって身体中刻まれるが、抵抗など出来もしない。
目の前に横たわる半兵衛の命の火が小さくなっていくのを感じながら、己の無力さを恨んだ。
なんとかサラシを破いて、止血をし、授業で習ったことを思い出しながら心臓マッサージを続けたおかげで一命を取り留めた。
医者によって治療を受ける半兵衛は、血の気が完全に失せ、死体のようだった。
刻まれた端々から傷が塞がっていくのを感じながら、半兵衛の行動について考えた。

思い当たるのは最悪の予感。

きっと半兵衛の寿命はそう長くない。
だからこんな無茶をしたのだろう。
策士である半兵衛らしくもない、根拠のない無鉄砲な真似を。

今の医学では半兵衛の病気を治せない。
私はそこらへんにいる一般の学生だ。
こうやって化け物をしているけれども、逆立ちをしたって医者にはなれない。
例え医者だろうと薬が無ければどうもできないのだ。

二進も三進もいかない状況に、尚も下ろされる刀を右手で受け止めた。
手に一筋の刀傷がつく。



「秀吉らは知ってるの? 半兵衛の「黒兎君!」



掠れている、しかししっかりとした声が言葉を遮った。
見れば脂汗をかきながらも、真剣な眼差しをこちらに向ける半兵衛の姿があった。
もう一度、ゆっくりと名前が呼ばれる。



「黒兎君、君は知らなくても良い事をよく知っているようだ。お願いだから黙っててくれないかな」



強い、拒否だった。
気を失う前に見せた笑みと同じものを浮かべ、半兵衛は強く拒否する。
私もつられるように笑って見せた。



「じゃあ生きて私を止めなよ」



そして出来れば私に殺されないでほしい。
元の世界に戻りたいのに、誰も殺したくない。
矛盾した想いが交差し、沈んでいく。

ここで半兵衛が死んだら元の世界に戻れるのだろうか
いや、誰かの為に殺したわけではないから無理か。
目の前で誰かが死ぬのを黙って見ていられない。だから助けた。
だが手助けしたから半兵衛は己を傷つけたのかもしれない。
救ったのか、傷つけたのか。私には判断が出来ない。

浅い呼吸を繰り返しながら、三成達に顔を向けた。
弱々しい姿なのに、目だけは凛々しく見据える。



「三成君、吉継君。ついでに官兵衛君、出てってくれないかな。秀吉、君だけは残っていてくれ。大事な話なんだ」

「……はい、半兵衛様がおっしゃるのなら」

「なぁ小生ついでって……」

「黒田よ、黙っておれ」



三成と黒田のおっさんは渋々といった様子だったが、結局逆らえず出て行った。
医者も消え、部屋には秀吉と半兵衛と私の三人だけ。
聞きたくない。本音を言えば、一緒にいなくなりたかった。
半兵衛が体を起こすのを手伝うが、お礼を言おうとした口からは咳。そして血が。
刻一刻と近づくタイムリミットを知らせるカウントダウンのようだった。



「僕は絶対に夢を実現してみせる。秀吉、君に絶対天下を取らせたい。
その為には黒兎君のように化け物になるのが近道だと思った」

「しかし、無理だったのであろう?」

「まぁね。でもこれで終わりだとは思わない。
黒兎君、君は死者を蘇らすことが出来るのだろう?」

「私に賭けすぎだよ。大穴を狙うばかりじゃ破産するよ」

「覚悟の内さ」



ならば。その覚悟を試させてもらおうか。
鎌を取りだし、秀吉の首に宛がう。



「秀吉の命を犠牲に生きるかい?」



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