壱
死に蝕まれた人間は
二つに分けられる
死に支配される者と
死を支配する者
「お前は死んだのだ」
目の前に現れたのは死神。
実際は違うかもしれないが、死を宣告する姿は死神そのものだった。
頭から足のつま先まで黒い布で覆い、表情を伺う事は出来ない。
死んでしまったからか、冷めた心は神を敬う信仰心も殺したらしい。
死神から視線を外し、地面へ落とす。
「だろうな。そうだと思った」
「落ち着いてるな。恐くないのか?」
「もう死んでるのに? 何を恐がれと言うんだ」
あるのは虚しさだけ。
なんで死んでしまったんだろう、と。
疑問が生まれ、そして消える。
意味の無い問答だと。
「希望はある」
「は?」
「生き返ることが出来る」
「嘘……、だろ」
「嘘ではない。その代わり犠牲もいる」
犠牲。
命を失った私にこれ以上失うものがあるのか。
そう、無いからこんな選択肢が生まれた。
「生き返りたければ殺せ。命の代わりは命しかない」
「私に人殺しをしろと?」
「誰でもいい。人を殺せばいいのだ」
簡単に言ってくれる。
恨みがましく睨むが怯む様子はない。
「悩む時間は無いぞ。その命は時限式。
期限が切れればそこで終わりだ」
「……いつまで?」
「短くはないが、長くもない。とだけ教えておこう」
ニタリ、と唯一見える口元が歪み、笑みをかたどる。
「いつ訪れるか分からない死の恐怖を味わえ。この人殺しが正義を語る世界でな」
背中を押される。
振り返るが死神の姿はなかった。
あるのは屍の道、戦場だ。
ふと思い出したように声が降ってきた。
「お前には人殺しの能力をやった。
殺せないなんて戯れ言抜かすなよ」
行くしか無いのか。
…この全身血濡れという不信感煽る姿で。