参
黒田のおっさんと三成の疑いが晴れたところで、家康に携帯の相談をした。
時間をくれれば必ず直してみせる。家康の言葉を信じ、携帯を託した。
携帯が壊れた後、一度だけメールを受信したが、それ以来電源を入れることすらできなくなってしまった。
もう一度奇跡が起きてくれれば。忠勝を連れて部屋に籠った家康を見送る。
秀吉は腰を下ろし、視線を合わせてくれた。
優しさを微塵に感じさせない厳しい目。
だがこの人についていけば大丈夫、という不思議な安心感があった。
大柄な体格か、違う。強靭な眼差しか、違う。力強い声か、違う。
お館様とは違う、絶対的なカリスマだ。
「不死の神子、黒兎。我らを娶れば、軍門に下るか?」
「旦那様と呼んでくれますか?」
「旦那様。これで満足か?」
あああありがとうございまっす!
後ろで三成が歯ぎしりしながら血の涙流してるよ、ざまぁみさらせ!
こんな簡単に秀吉達を嫁に娶ることが出来るとは思わなかった。
化け物を利用できるなら手段を選ばないのか。
それとも嫁ならば安い物だと判断したのか。夫婦と言っても自己満足の域。何かを束縛することはない。
戦国一の策士である半兵衛が後ろにいるのだ。ある程度の要求は応えようと話し合いが行われたのかもしれない。
全身で文句を言いたそうにしている三成も、唇が青くなるほど噛みしめ、何も言ってこない。
秀吉の手を取ると唸り声が聞こえた。にこりと微笑む。
「秀吉に忠誠を誓う事は出来ないけれど、一時的に力を貸す事なら出来るよ」
「それでいい。我が覇道の手助けをしてもらおう」
「三成、聞いた聞いた? あとお前だけは嫁にする気ないから。意地でも嫁にしない、いらん」
「私を侮辱する気かぁあああああ!」
色気も愛想もない青びょうたんを嫁にする気はない。
年下には興味無いんだよ。家康も同様に嫁ではない。
言ったら腹を立たせることが出来ないから言わないけど。
ストライクゾーンは広いと自負しているが、残念ながら年下は犯罪の香りがするからと範囲外だ。
斬りかかってくる三成の攻撃を全て避け、大笑いしてやった。
容赦のない素早い斬道は筋が良い。ただ一直線で分かりやすく、たやすく避けられる。
じゃあこっちの番。
鎌を取りだすと、噂通りだねと半兵衛が呟いた。
どうせなら黒田のおっさんとよっしーもかかってきなよ。
三人まとめて相手してあげるからさ。
ニヤリと笑めば、舐められたもんだなと二人も構えた。
黒田のおっさんは鎖のついた鉄球。よっしーは宙に舞う数珠。
軌道が分かりづらい面白い武器に、鎌は邪魔だと消す。
飛んできた鉄球を片手でいなすと、黒田のおっさんは唖然としているようだった。
「化け物ならではの戦い方を教えてあげるよ」
三成の刀を敢えて腹に刺し、そのままぐるりと回り後方を狙う数珠を切り落とす。
四分の一切れた胴に突き刺さった刀を柄で折り、刃を腹に残したまま鉄球を蹴り返す。
潰れた黒田のおっさんを気にかけることなく、鉄球の影を縫い飛んできた数珠を手で砕いた。武器を失った三成をよっしーに投げ飛ばすと、三人とも戦闘不能になったようだ。
最後に刃を引っこ抜き、三成に放り投げる。
服を捲り、早くも塞いだ傷口を見せると、秀吉も化け物だということを改めて確認してくたようだった。
「舐めてたのはそっちのようだったね。どう御二人さん、面白かったでしょ?」
「うむ、この力を手に入れたのは心強い」
「そうだね、決めたよ。黒兎君、僕を飼うか、僕に飼われるか。選びたまえ」
……そろそろつっこみに疲れたな。