弐
通された大広間は体育館のような広さと天井の高さだ。
3メートル、いやもっとあるのだろうか。
人間離れした大きさの秀吉が腕を組んで立っていた。
その左横にアーモンドを連想させる髪型の細身の少年(無茶苦茶睨んできている)。全身に包帯を巻き、頭に蝶のような飾りをつけた浮いた輿に座る男。
右横につい最近置いてけぼりにした覚えがある黒田のおっさん。
少し離れて、前より身長が少し伸びた家康と、相変わらず威圧感のある忠勝の姿があった。
サヤカちゃんはまだ報告中かな。姿が見当たらない。
久しぶりだな、手をあげる家康の声を遮り、黒田のおっさんが叫ぶ。
人を指ささないでくれますか。他人行儀に返せば、更に怒鳴られた。
「お前さん、小生を置いていきやがって! あの後小生がどれだけ大変な目に遭ったか……!」
元を返せば黒田のおっさんのせいな気がするが、よくもまぁあの状態から逃げ出すことが出来たな。
賊にも置いていかれ、縄から抜け出した後も洞窟が再び崩れ散々な目にあったらしい。
なんてざまぁ、じゃなくて、やっぱりざまあみろ。
秀吉に改めて向き合うと首が疲れそうだったので少し遠くからご挨拶。
何十枚も敷かれた畳の一つを踏みしめ、見上げる。
「初めまして。ご存知でしょうが化け物の黒兎でございます。
ご利用の際に注意点を一つ。皆まとめて私の嫁に来ることが条件です」
「させんぞぉおおおおおお! 嫁だと!? 戯けたことを言うな!
秀吉様、半兵衛様は勿論私達誰ひとり貴様の自由にさせてたまるか!
化け物と名乗るなら私と勝負しろぉおおおおおおおお!!」
人を殺しそうな怨念の籠った目で睨んできた少年が、喉が裂けてしまいそうな凄まじい叫び声をあげた。
家康と同い年位だろうか。まぁまぁと宥めすかす家康の声など一片も届いていない。
「えと、誰? 包帯さんも含めてお二人の名前を伺いたいんだけど」
「貴様に名乗る名など持ち合わせていない!」
「やれ、もう忘れたか。まぁ目も碌に見えておらぬようだったから詮無いか」
「……もしかしてよっしー? ってことは石田三成、とか?」
肯定は無かったが、動揺する姿を見れば分かる。
目の前の少年は関ヶ原の戦いで有名な石田三成だ。
あの時は目にも怪我をしていた為、よっしーの姿も朧にしか確認できなかった。
顔を包帯で覆い隠し、仮面のような兜を被っている。この様子ならきっと目が見えてても顔は見せていなかっただろうから、状況は変わらなそう。
少年と友人ってことはよっしーも若いのだろうか。顔が隠れているせいで年齢不詳だ。
三成が叫んでいる様子をニタニタと観察している姿は友人にしては根性がねじ曲がっていると見た。
黒田のおっさん同様思いっきり指さし、秀吉に声を荒げる。
「秀吉様、この男を斬滅する許可を!」
「私は女だってば」
慣れたけどつっこみをいれることは忘れない。だって女の子だもの。
バッと勢いよく振り返り、ある一点に視線を集中する。
ずんずんと近づいてきたと思ったら、躊躇うことなく胸に手をあててきた。
後ろで顔を真っ赤にする家康。このメンバーの中で女だと知っている唯一の人間だからな(忠勝は人間にカウントしていいのか悩むところだ)。
「ないではないか! 嘘をつくな!」
さ、触っておいて! そのまま怒鳴りつけるのも面白くない。
手を伸ばしたのは彼の股間。遠慮なく引っ掴んで、高らかに笑ってやった。
「全然無いじゃんか。三成君じゃなくて三成ちゃんだったみたいだねー?」
「なっ、ならば貴様にはさぞかし立派なのが付いているんだろうな!」
「だから付いてないっつってんだろうが!!」
「男ならばついているだろ!」
「女だって言ってるじゃん!」
「ヒヒ、傷が完治したかと思えば胸は抉れたままか」
「秀吉、こいつらを斬滅する許可を!」
「秀吉様を呼び捨てにするな! 私の真似をするな!」
結局ちゃんと性別を知っていた半兵衛が説明するまで、三成は私が女だと信じることはなかった。
豊臣の情報伝達能力杜撰すぎる!