弐拾伍
先程の会合を思い出し、気づかぬうちに近づいていたタイムリミットに舌打ちしたくなった。
鶴ちゃんが嘘をついているとは思えないし、薄々予感はしていた。
だからこそ焦っている自分が居る。
落ち着かねば勝算はない。分かっていても焦燥感のみが募っていく。
化け物だからと慢心していた。
てっきり永遠を生きられる身体なのだと、そう思っていた。
逃げるのもやめなきゃならない。
優しさからも、死からも、現実からも。逃げて逃げて、いつの間にか回り込まれていた。
立ち向かう手段も、勇気も、度胸もまだないけれど、そろそろ向き合わなきゃ。
屋敷を出る鶴ちゃんを見送る為、外に出る。
すぐに私の存在に気づき、気まずそうな笑みを浮かべた。
「鶴ちゃんが気に病む必要なんてないよ」
「そうですか? じゃあ言いますけれど、近々両腕スパーンの血みどろドロドロされちゃいますよ」
「なんて物騒な先見!!」
「……私には未来を見る力がありますけれど、それで化け物だと言われたことはありません。未来が見える他には別段人間と変わらないからだと思います。
同じようにとてつもなく強い力を持っている貴方も人間の一人ですよ」
穢れなき巫女が綴る奇麗事を素直に受け入れられない。
私は人間じゃないんだよ。ここで死んだあの日から、人間でいることをやめたんだ。
決めたのは死神じゃない。化け物だと慄いた他人でもない。
他でもない私自身だ。
「 」
私の言葉に、にこりと純真な笑みを残し、鶴ちゃんは帰っていった。
広間に戻ると苦々しげな視線を一挙に向けられた。
畳に残る大量の血痕が彼らの抑止力になっている。
殺意が満たされた部屋で、元就が重い口を開いた。
「やはり貴様は化け物だな」
刺々しい言い様に、心底安心する。
そうだ、それで良い。
「そうだよ。知ってたくせに」
「殿、惑わされてはなりませぬ! 妖魔は殿を誑かし、国を傾けるつもりですぞ」
「化け物であろうと利用できるものは利用する。誑かされておらぬ」
「しかし!」
「化け物であることを認め、利用されることも厭わないと言っているのだ。
黒兎も反論は無いだろう」
「そりゃまあ」
周知の事実だ。この世界に居る限り化け物を演じてみせる。
変態で、馬鹿で、単純で、狡い。そんな化け物に。
ここに居る私と、元の世界の私は別物だから。
「殺されたいほど愛してるよ、人間」
だから殺させてください。
貴方達の命を糧に、生き返ります。