拾漆
元就(とついでに慶次)に小一時間ほどツンデレについて説き、いかにデレのタイミングが重要か教えた。
舟をこぐ慶次の横で元就は終始相槌を打ち、時には質問を入れる。勉強熱心で嬉しいな。
居眠りから本格的な昼寝を始めた慶次の顔が落書きで埋まった頃、話は情勢についてへ変わっていった。
織田が本願寺を攻め落としたということ。
豊臣が相模(北条)を侵略していようとしていること。
武田は戦の準備をしているようだが、相模への援助ではなく、別の戦を起こそうとしている事。
浅井が朝倉と織田の板ばさみになり、近々戦が起きるであろうということ。
長曾我部が伊達に宣戦布告したということ。
各地で燻っていた筈の戦火が燃え上がろうとしている。
武田も関係していると聞いては黙ってみていられない。
それにしても、今まで静かだったというのに突然過ぎではないだろうか。一、二箇所ならまだしも多い気がする。
淡々と話す元就からは感情は読み取れない。
歴史の教科書を読み上げるかのように、一本調子で情報を伝えてくれている。
「そしてこの期に乗じ、四国を攻め落とす」
「……、え?」
「長曾我部は伊達に気を取られている。ならば今が攻め時であろう。厳島をいつまでも渡したままではいられぬ」
もしかして元就同様、便乗して動いた軍がいるのか。
危ないな、それなら聞いた他にも動き出す軍が現れるかもしれない。
潮時だな。
好意に甘えて好き勝手させてもらったが、そろそろ決めなきゃいけない。
生き返るために――自分以外のために――、誰かを殺すことを。
長居するにも今までのようにあちこち遊びに行けなくなる。知らぬ存ぜぬでは通せない。
黙って見届けることはできない。絶対に手が出てしまう。
人を殺すことはできない。未だに手が震えてしまう。
人を殺さない悪人になりたい。みんなの努力をぐちゃぐちゃにしてやって、戦いを有耶無耶にしたい。
一人のエゴで、かき乱してやりたい。
やっぱり誰かの為に殺すの無理かもなぁ。
家族の顔も友人の顔も日に日に薄れそうだ。
その割に突如鮮明になる輪郭が寂しさを増大させる。
決めよう。
化け物でも、神子でもない。
蒼依黒兎として生きる為に。
「黒兎、協力してくれるな?」
「あぁ、是非参加させて」
決断する為にも嫁も利用させてもらおうか。
難しいことは分かっている。穴が多い作戦だ、失敗する確率が高い。
それなら穴を他のもので埋めるしかないじゃないか。
生きている人をかき集め、慶次じゃないがでっかい花火を打ち上げよう。
関が原の戦いを私が起こしてやる。