拾肆

「慶次、これがツンデレだよ! ちょっとツンが多かったけど、7:3がツンデレの黄金比だって誰かが言ってた気がするから良いと思う。
あ、慶次大丈夫?」

「分かりやすいついで扱い!」



解放された慶次の手を引っ張り、立ち上がらせる。
良かった、大きな怪我はしていない。首についた小さな刀傷をなぞると、くすぐったのか変な声が出た。
気まずそうに赤くした顔を逸らす慶次。
おぉ、意外な反応だ。遊郭に出入りしてる癖に初心な態度を取られると楽しくなるじゃないか。

可愛い反応にもっと弄ってやりたくなる。
わき腹を擽ると更に変な声で笑い出した。思わぬ弱点を思う存分堪能してやりたかったが、涙目になったところでやめておいた。

慶次に超刀を渡し、相手されなくて寂しがっている元就に近づく。
向けられている剥き出しの刃を引っ掴み、元就の頭を畳に押し付けた。
刀を奪い取って放り投げると、血だらけの手で鎌を取り出して首の後ろにぴったりと宛がう。今度は私が冷たく見下ろす番だ。

慶次を狙おうとした忍が居たが、黙ってやられる慶次じゃない。
超刀を振り回し忍を跳ね除けた。



「なぁ、舐めた真似すると主の首刎ねるよ。これはあんたらと元就への罰だ。
頭の良い元就なら分かってただろ。慶次は関係ないって」



ギリリ、と頭が変形しそうなほど強く押さえつけた。
自分でも驚くほど抑揚の無い声。顔を畳に押し付けてるせいで首を動かすどころか声を出すこともできないことに気づいたのは解放した後。
慶次がもう良いから、と辛そうな声を絞り出した後だった。


「戦国時代って人殺しとか平気な人ばかりだと思ってたけど違うんだね。それとも慶次が甘いのかな」

「黒兎は人を殺すのが怖いんだろ?」

「……なぁ元就、化け物を飼おうと思うなよ。良い頭も首だけじゃ使えないだろ?」


やっぱり私は誰かのために生きることは出来ない。
誰かに使われることも、誰かを護ることも、誰かに捧げることも。
自分の命は自分の為にしか使えない。

この時代の人々に触れて、皆今日を真っ直ぐと生きていると感じた。
剣を握っている人も、その人たちを待っている人も。
死んでないから今日を生きている私とは違う。

苦しそうに咳き込む元就を見て、今更ながら罪悪感に蝕まれる。
気持ち悪い。ぐるぐると感情ばかりが渦巻いて、気分が悪くなる。

元就の質問を理解するのにも時間がかかった。



「帰る方法を探していると言っていたが、あてはあるのか」

「……、いや、分からない」



知らないことはないけど。
私以外の為に人を殺すこと。どうすれば誰かの為に人を殺せるのか分からない。
ただ人を殺すことで生き返るとは言いづらかった。
嫌われることも、軽蔑されることも、恐怖されることも厭わない筈なのに何で言えないんだろう。

長く居過ぎたのかもしれない。
元いた世界の方が平和で、便利で、家族も友人も居る。比べようのない世界なのに。

自分でも沈んでいくのに気づいた。
知らず知らずのうちに俯いていた顔を上げ、バック転してみた。失敗した。



「あーっ、なんて湿っぽい空気! 私のせいだよね、知ってる!
元就、慶次、ごめん! 忍さんたちもごめん!!」



私なりの精一杯の気遣いだったが、あまりに不可解すぎる行動だったらしく妙な沈黙が生まれてしまった。……マジで失敗した。



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