ビルやマンションなど当然ない、低い建物と果てまで広がる畑。
田植えをしている人に挨拶をしつつ、高松城に向かう。
馬に気絶している元就を乗せ、慶次が馬を操る。私は慶次の話し相手。
のんびりと談笑していると元就の目が薄く開いた。


元就が目を開けた瞬間高鳴る胸。
良かった目覚めたと触れようとする手を痺れるほど強い力で叩かれる。



「下衆が我に触れるな」

「きたぁああああっ! やっとツンだよ、戻ったよ!
これで嫌がる元就を無理やり支配できる」

「毛利逃げて、超逃げて」

「変態神子が、汚い目で我を見るでない。前田、貴様が首謀者か」

「いや、そこの変態神子もとい黒兎が首謀者だよ」



わお、変態神子がデフォルトか。嫁このやろう☆
汚物を見るかのような目で見下ろしてくる元就にS心が擽られる。
ゆっくりと目を細め、馬に跨ったままの元就の腰を圧迫した。



「おぉ、かすがまではいかないけどなかなかの細腰。今まで会った男性の中じゃ一番細いかも」

「ぐ、ぁ、離せ……っ!」

「うわ何その声、ムラムラする」



脊椎潰したくなるぐらいに良い声。
脂汗を滲ませ、苦しげな声を漏らす元就は先程のデレを微塵に感じさせない。
そうか、あれは夢だったんだな。良かった良かった。
もう人に石投げるのはやめよう。一つ賢くなったよ。


結局町につくまで元就の腰を堪能した私は駒に切り捨てられそうになるのだった。ちゃんちゃん。
自業自得と叱られようが納得できない結末に、もう一度お決まりの台詞を叫ぶ。



「嫁に来ないか」

「神子風情がほざくな、貴様を旦那にして我に何の得があるというのだ。
我がこうやって口を利いてやるだけで光栄なことだと思え。
おい、絶対に神子を城に近づけるな。殺してもよい、虫を我の視界に入れるな」


緩急つけず絶対零度の暴言をまくしたて、背を向けるオクラ。
……今までで一番酷いフラレ方した気がする。
断られることは何度もあったけど、そこまで言われたことはなかった。
思わず慶次を見上げると、よっぽど寂しげな目をしていたのか、よしよしと頭を撫でられた。
うん、ちょっと回復。

愛情を憎しみに変え、兵士のおじさんと話し込むオクラを睨んだ途端振り返ってきた。



「神子よ、名をなんという」

「蒼依黒兎だけど」

「男色の化け物とは貴様のことだったか。」

「好色家と言ってくれ」

「……一つ言っておくが我は男ぞ」

「私が女の方だから!」



目をこらすように上から下まで見られ、まぁいいと興味なさげに放り投げる。
男色の化け物という情報が広く流布されていることにショックをうけつつも、オクラがうっすらと笑うのを見つめた。



「気が変わった。旦那として歓迎しようぞ」

「よっしゃ、嫁ありがとう!」

「ちょ、毛利どう考えても利用する気満々じゃん!」

「え、毛利が私を? ありえないってー」



純粋に心配してくれる慶次に明るく笑いかける。
化け物と知った途端、嫁になると決めた度胸は認める。
そして自分の容姿や能力をしかと理解した上の契約。
使えるものは化け物であろうと使おうとする根性も評価しよう。
だけどさ



「化け物を飼い慣らせる器じゃねぇよ」



喉を鳴らし囁いた言葉は届いたのだろうか。
息を呑む慶次を置いて自惚れの背中を追った。


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