玖
とりあえず。気絶した毛利を見下ろし、次にやらねばならぬことを話し合うことにした。
まずは一国の主である毛利を城に送ること。
ツンな毛利を嫁に娶ること。
今起こっている、または起こりそうな戦について聞くこと。
慶次から聞いた話じゃ最近は目立った暴動もなく平和らしいが、嵐の前のなんとやら。
いつ戦いが起きても可笑しくないのが戦国乱世だ。
未だに戦国時代に来たことに疑いを持っているが、来てから数ヶ月経ってしまった。
夢にしては長すぎるし、痛みも何度か感じた。
教科書を通して知る偉人と笑い合って、時間を共有しているなんて当人ですら笑いそうになる。
前田慶次も、毛利元就も、未来に語り継がれる有名な武将。
じゃあ私みたいなイレギュラーはどんな存在になるのだろう。
ゲームの中とはいえ私は一体どんな役割で、どこに存在している?
自分の配置された場所が分からず、右往左往している駒は誰にも動かされないまま立ち往生。
ここに居て良い存在じゃない。
分かっていても帰れない。――誰かのために誰かを殺す――私に課された試練から目を逸らしているから。
綺麗事を言うわけじゃないが、人を殺す事に拒否反応を起こしている。
「全然関係ないこと質問するけどさ、慶次ってなんで人殺さないんだ?」
「んー、嫌いだからかなぁ。喧嘩は好きだけど、殺しは嫌い。だから殺さない。
それじゃあ駄目かい?」
「嫌い、かぁ。悪くないよ、ただ思った答えとは違ったかな。
てっきり怖いからかと思っていた」
「それは黒兎がそうだから?」
「そうかもね」
慶次は怖いって思ってないんだ。
そういえば佐助も人殺し嫌いって言ってたけど怖いとは言ってなかったな。
今まで会った人は人殺しを怖いと思っていなかった気がする。
殺すことが怖いと感じる以上に、自分の死に怯えているから。
一度死んだ私は自分の死に怯えることはない。
その代わり私は自分以外を殺すことに怯えている。
もしかしたら他人が怖いのかもしれない。
嫌われるのが、好かれるのが、依存してしまうのが、関わってしまうのが。
違う世界の人と仲良くなればなるほど帰りたくなくなりそうで、でも帰りたくて。
これ以上一緒にいると殺せなくなる。
分かっていても腰が上がらない。……誰かの為に誰かを殺すなんてどうすれば良いんだよ。
「黒兎、一人で悩むより二人で悩む方が良いぜ」
「元就が次起きるときには完全体(ツン的な意味で)になっているかなぁって悩んでた」
「そのボケ方は無理あると思う」
「私も思う。だけどそんなツッコミを私は求めていないっ!」
「黒兎って優しくされると違う意味で弱いよな」
「うん、自覚してる……」
優しくされると弱いんじゃないんだ。優しくされると弱るんだ。
この世界に来たときは優しさを求めていたのに、順応していく自分に気づいてから優しさが鎖や枷としか思えない。
「……さぁて元就を城まで運ぼうか」
細い身体を抱え上げ、曖昧に微笑んでやった。