何も、見えない。
いくら待っても答えが返ってこない状況に、黙って行ってしまったのかと錯覚する。
だが慶次の呼吸音がいつまで立っても消えないから、私が幻聴を聞いてない限りまだ居てくれているのだろう。

見えないことによって不安になるが目を開ける勇気もなかった。
焼き塞がれた目をこじ開けて見た現実を直視できる自信がない。
どうせなら喉も耳も焼いてほしかった。灰になるまで、燃やし尽くして欲しい。
灰になれば、もしかしたら元の世界まで飛んでいけるかもしれない。
誰の目に映ることも無く、空気中を舞えればいいのになぁ。



「黒兎、」



名前を呼ぶ声は掠れている。
土ぼこりが舞う中、呼号していたのだ。
私の名前を、ずっと。



「黒兎はどうしてほしい? 俺は黒兎の希望に沿うぜ」

「……質問に質問で返すなよ」

「黒兎が俺にいなくなってほしいって言うなら城を出るし、黒兎が俺に居てほしいって言うならここにいる」


そんなの決まってるじゃないか。

慶次の声が優しく鼓膜を震わす。卑怯だ。
ぼやけた笑顔が輪郭を取り戻した。卑怯だ。
幼子をあやすように答えを促される。卑怯だ。



「っ居てほしいに、決まってるじゃんか……!」



言ってしまった。
吐き出された本音は涙そのもの。独りはもう嫌だ。
突き放すのも突き放されるのも、悲しくてたまらない。

俯きつつも目を見開けばポタポタと血が涙のように零れた。
拭うと血と焦げた何かが腕に線を描く。
一番化け物と卑下していたのは自分じゃないか。
それならば今日から……、今から化け物なりに胸を張ってやろう。



「よっし、じゃあ俺はザビー。黒兎は島津のじっちゃんな!」

「小癪ナ小僧タチネ。オ仕置キシチャウンダカラッ」

「鬼島津、遅くなって悪いね。化け物の意地、見せてやるよ」

「そりゃ楽しみね。鬼島津の本気、受け止めんしゃい!」



島津の爺ちゃん良い人だけど、自分の戦いには私情をはさまない達観とした人だよなぁ。
鎌で斬撃の軌道を逸らし、一気に間合いを縮める。
遠距離攻撃を持っていない分、距離を置かれると辛い。
武器がでかいからリーチが長いけど。

爺ちゃんに鎌を突き立てるように落とす。
しかし刃の分厚い刀によって受け止められた挙句、跳ね返されてしまった。
鬼の名は伊達じゃないようだ。一筋縄ではいかない。

一つ一つの技は遅くて見極めやすい。しかし、その分避けきれなかったときの威力がでかい。
初めからクライマックス、ていうか全力?

鎌を引きずり、火花を散らしながら振り上げる。
やっと縦一直線の傷を顔に一つ。手ごたえから見るにかすり傷程度だが。
狼狽えることなく迷いなき刀が上半身と下半身を両断すべく迫る。
寸前で両足を使い刃を挟み込み、両手で爺ちゃんの頭を押さえ込んだ。
そして手のほうを軸に爺ちゃんの後ろに回りこみ、裸絞めしてやった。



「ぐっ、う……」

「鬼さん、今回は化け物の勝ち」

「……っまいったど」



武器を下ろしたのを確認し、解放する。
正面に向き合うと爺ちゃんは悔しがりつつも満足げだった。



「なぁ、薩摩の鬼島津に戻らないか? 私ザビーよりも強いし、私の言うこと聞いちゃおうよ」

「なんと、オイに薩摩ば戻れ言うんか」

「うん、戻れ」



我ながら失礼な物言いだが、勝者は私だ。
勝ったら負けた方を好きにしていいんだよ。
今決めた。私が決めた。



「私の嫁になるついでに薩摩へ帰ろうよ」

「嫁とは面白い神子ばね! よか、オイは薩摩に戻るとするばい。旦那とまた戦えること楽しみに待ってるど」



まじで?
爽やかな笑顔を浮かべ二つ返事で帰っていった爺ちゃんに呆然とした。
あれぇ、島津の爺ちゃん攻略出来ちゃったよ。

あっさりとした結末に物足りなさを感じつつ、慶次へと振り返る。



「慶次、こっちは終わったけどー……」

「幸せになるツボ!? よし、買った!」

「慶次ぃいいいいいいいい!!?」



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